不動産投資コラム

大家が知っておくべき「強制退去」の基礎知識

大家が知っておくべき「強制退去」の基礎知識

前回は、「賃貸借契約を解除する上で、必要な滞納期間」についてお話ししました。

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皆さん、おそらく強制退去という言葉を聞いたことがあるでしょう。
この言葉から連想するのはあまり良いものではないかもしれません。まるで権力側が弱者の生活を無理やり奪うといったような。

しかし、事はそう簡単ではありません。いろんな事情、背景があるのです。
今日はそういったことも含めて強制退去というものについてお話したいと思います。

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「強制退去」とは

一口に強制退去といってもいろいろです。

例えば、家賃滞納に基づくものもあれば、老朽化に伴うものもあります。
これら様々な状況それぞれに、強制退去のドラマがあるのです。
まずはそもそも強制退去とはどんな手続きかということについてお話ししましょう。

強制退去、法的には強制執行という言葉が一般的ですが、これを実施するには先に行っておかなければならないことがあります。

そう、裁判です。
裁判で勝訴判決を取らなければなりません。

この勝訴判決、「債務名義」とも言います。債務名義には他に裁判所で和解がなされ、和解調書が作られた場合も含まれます。

多くの方々は、勝訴判決を得れば、自動的に強制執行をしてもらえると誤解しているようです。
しかし、これは間違いです。
勝訴判決は、あくまで「あなたの勝ち」という判定をしてくれただけであって、その後どうするかについては何も示してくれません。

強制執行は、この「あなたの勝ち」という判定書に基づいて国家機関によって強制的に「勝利という結果の実現」をしてもらうという別の手続きになるのです。

「強制執行」までの流れ

強制執行には、意外と時間がかります。
だいたい1ヵ月から1ヵ月半くらいかかると思っておいてよいでしょう。
これは訴訟提起からの期間ではありません。勝訴判決が出てからの期間です。なので、勝訴判決が出るまでの期間に加え、これだけの期間がかかると知っておいてください。大家さんからすれば、本当に面倒で時間がかかる手続きだと思います。

強制執行の申立がなされると、まずは催告という手続きに入ります。これは強制執行の予告のための手続です。
催告日に裁判所の執行官が賃借人宅を訪問し、貼紙をしていきます。
この貼紙には、「●月●日までに退去しなさい。そうでないと強制執行します。」といった内容の記載がなされています。

催告日には、執行官の他に民間の執行業者さんも同行するのが一般的です。同行する理由は、荷物の量を見るためです。
この荷物の量によって執行の費用が違ってきます。

この日からほどなくして、執行業者さんから見積もりが送られてきます。
この執行費用というものは、通常の引っ越しの費用の2倍程度かかります。

理由は、執行における制約です。
つまり、強制執行は、普通の引っ越しと違って時間的な制約があります。なので、その限られた時間で強制執行をするために人工は多めに配置されるのが通常なのです。
これはできれば減らしてほしいというのが心情でしょう。

私も弁護士として、執行業者さんにできるだけ人工を減らしてくださいとお願いしています。
しかし、それにも限度があるのです。

というのも、執行官がそれを許さないからです。あまりに少ない人工で現場に赴くと、執行官から強く叱責され、場合によっては、その執行業者さんが今後仕事をもらえないということになりかねないのです。

そういった事情から、人工を減らすのには限度があり、必然的に費用は多額になってしまうのです。

催告にもかかわらず、賃借人が自主的に引っ越しをしない場合、催告からおおむね1ヵ月程度でいよいよ強制執行ということになります。

この期間は執行官のさじ加減なのですが、1ヵ月を越えるということは原則として禁止されていますので、1ヵ月の範囲内で執行官の判断ということになります。

賃貸人さんからすれば、一日でも早くというところですが、執行官は1ヵ月ぎりぎりのところに設定するのが通常です。

強制執行の現場は案外粛々としています。暴れたり怒鳴ったりするような場面はほとんどありません。
ここまで退去しないでいるような賃借人さんは案外肝が据わっているというか、慣れている方も結構いらっしゃるので。
むしろ経済的出費を負うことになる賃貸人さんの方がへこんでいます。

強制執行は賃貸人さんの経済的負担を重くします。
なので、裁判を行うにしても、いかに強制執行までいかずに自主退去させるかが、費用節約のポイントになります。

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上野 晃
上野 晃

上野 晃

弁護士

上野 晃

弁護士

早稲田大学卒業。2007年弁護士登録(東京弁護士会)。賃貸不動産オーナー対象のセミナー講師も多数務める。共著に『弁護士からの提言 債権法改正を考える』(第一法規)がある。

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