減価償却が終了しているアパート。同族法人に簿価1円で建物を売買できる?
個人でアパートを所有しています。
法人化を勧められたので、アパートの建物だけを同族法人に売却しようと思っています。
建物の簿価が1円なのですが、1円で売買してもよいのでしょうか?
個人と法人との取引は時価(市場価格)でしなければなりません。
とくに同族法人との取引では厳密な時価が求められます。
建物の場合、簿価(未償却残高)を時価とすることは、一定の条件のもと認められています。
法人税基本通達 9-1-19 減価償却資産の時価について、「未償却残額に相当する金額によっているときは、これを認める。」を規定されています。
建物については、値上がりすることはないと考えられていることから、購入金額から価値の下落を考慮(減価償却費を控除)した金額を時価とすることは、合理性があるものと考えます。
なお、土地については値上がりが考えられるため、簿価を時価とすることはできません。
では、建物の簿価が1円でも時価と認められるか?
簿価1円を時価とするのは難しいと考えます。
とくにアパートであれば、家賃収入が入ってきますので、1円で売買すると低額譲渡となって、適正な時価に引き直されてしまう可能性があります。
そこで次の方法で売買金額を決めることになります。
(1)固定資産税評価額を採用する
固定資産税評価額は市町村の評価によって算定された金額です。ある程度、根拠がある時価と認められる可能性があります。
「再建築見積価額を再調達原価として評価する方法によって適正な価額が算出できない場合には、固定資産税評価額をもって建物等の適正な価額とすることも、合理性があると認められる。」
と判断されています。
ただし、固定資産税評価額は3年に1回の評価替えのため、評価替えの年以外に譲渡する場合には、時の経過に伴う所要の補正が必要とも言及しています。
また、建物の固定資産税評価額はどれだけ年数が経過しても評価額の2割は残存価格として残る計算になっています。
このように固定資産税評価額が確実に時価を反映しているとは言い切れない部分もあります。
(2)鑑定評価を採用する
不動産鑑定士に建物の金額を鑑定評価してもらえれば、その金額をもって時価と認めれる可能性は高いです。
鑑定費用はかかってしまいますが、建物によっては、固定資産税評価額よりも低い金額になることもあります。
どのくらいの金額の評価になるのか、事前に見積もってくれる鑑定士の先生もいますので、一度見積もりを聞いてみるのもよいと考えます。
2024/07/12
手間をかけずに将来に備えた資産をつくる…空室リスクが低い不動産投資とは?
回答者渡邊 浩滋
税理士・司法書士