不動産投資コラム

不動産鑑定士が見た、地価が下落する土地の特徴

不動産鑑定士堀田 直紀
不動産鑑定士が見た、地価が下落する土地の特徴

2019年のはじめに「不動産鑑定士が見た、地価が上昇する土地の特徴5つ」というテーマで執筆しましたが、今回は反対に、地価が下落する特徴をあげてみたいと思います。

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平成31年/地価公示の概要

先日発表された平成31年の地価公示(※)の概要は以下の通りでした。
この概要を一見すると全国的に地価は上昇しているのかなという印象を受けます。

(※)地価公示:国土交通省の土地鑑定委員会が、地価公示法に基づいて、鑑定評価員(不動産鑑定士)による鑑定評価をもとに、毎年1月1日時点の標準地の1㎡あたりの正常な価格を毎年3月下旬に発表するもの。

・全国平均……全用途平均が4年連続の上昇となり、上昇幅も3年連続で拡大し上昇基調を強めている。用途別では、住宅地は2年連続、商業地は4年連続、工業地は3年連続の上昇となり、それぞれ上昇基調を強めている。

・三大都市圏……全用途平均・住宅地・商業地・工業地のいずれについても、各圏域で上昇が継続し、上昇基調を強めている。

・地方圏……全用途平均・住宅地が平成4年以来27年ぶりに上昇に転じた。
商業地・工業地は2年連続の上昇となり、上昇基調を強めている。地方圏のうち、地方四市(札幌市、仙台市、広島市、福岡市)では全ての用途で上昇が継続し、上昇基調を強めている。地方四市を除くその他の地域においても、商業地が平成5年から続いた下落から横ばいとなり、工業地は平成4年以来27年ぶりに上昇に転じた。

国土交通省/平成31年地価公示

これをみると、確かに、都市部では金融緩和による良好な資金調達環境、オフィス空室率の低下、好調なインバウンド需要などを背景として、不動産の取得意欲が高いため、地価が上昇している地点が多いといえます。

しかし、全国的に見た場合、前回調査よりも下落幅が縮小しているものの、依然として継続して下落している箇所も数多く見られます。

今回は地価下落の現状と要因について見ていきたいと思います。

平成31年/地価下落ランキング

下表は、全用途の圏域別の地価下落率のランキングです。
ご覧いただくと、1年間でこんなに地価が下落しているのかと驚かれるかもしれません。

図表:国土交通省/平成31年地価公示「全用途の変動率下位順位表(圏域別)」よりミッドポイント不動産鑑定株式会社作成

東京圏では、神奈川県の三浦市と横須賀市で下落率上位のほとんどを占めています。上昇地点が多い圏域にあって、とても大きい下落となっています。
その主な要因としては、三浦半島や県西部では、他の地域と比べ、都心接近性に劣り、人口減少、高齢化が進行していることが挙げられます。
下落幅は前回よりも縮小したものの、下落の傾向は続いていくものと考えられます。

大阪圏では、奈良県と大阪府の地点が目立ちます
奈良県生駒郡三郷町、平群町では、安値大量供給による供給過剰状態が継続中であることに加え、傾斜地勢の住宅地も多く、台風被害も発生したことから、地域のイメージも悪化していることが影響したようです。
また、大阪府の泉南郡岬町では市街地から離れた住宅地であり、利便性に劣り、需要が低迷していることが要因として挙げられます。

名古屋圏では下落率10位のすべてが愛知県知多郡の地点となっています。今回の地価公示では、名古屋市内中心部では、全国的に高い上昇率となったのとは対照的に、知多郡美浜町と南知多町では大きな下落率となっています。
下落率の大きい他の地域と同様に、人口減少に歯止めがかからないことに加え、沿岸部に位置することから、津波などの災害リスクが懸念されるため、需要者は地縁者に限定されてしまうということが大きいものと思われます。

その他の地方圏においては、岡山県倉敷市真備町、広島県安芸郡坂町、呉市の地点が下落しており、これは「平成30年7月豪雨」による浸水や土砂災害が要因となっています。

また、表にはありませんが、同年の「北海道胆振東部地震」の被害を受けた北海道勇払郡厚真町の地点も大きな下落となっています。
他には、水産加工業中心の港町である北海道古平郡では、人口減少・高齢化率が高く、地域経済の停滞などもあり下落傾向が続いている状況です。

このように、都市部から離れ、人口減少・高齢化が進む地域や、台風・地震といった災害に見舞われた地域では、土地の取引需要が減退し、地価の下落につながっていることが分かります。

5年前と現在で比べる地価の下落率ランキング

ここまでは、個別地点の1年間の下落率を見てきました。

ここでは、長期的な視点で地価を把握するために、直近5年間の比較をしたいと思います。
取り上げたのは、平成31年と26年における、市区の住宅地の平均価格と変動率です。

例えば、下表の三浦市においては、5年間で平均25%も下落しているということになります。
国土交通省の公表データを元に三大都市圏及びその他の人口10万以上の市について、作成しました。
全国的な地価が平均では上昇している局面において、これらの地域の下落率はとても大きいと考えられます。




図表:国土交通省/平成31年及び平成26年地価公示「市区の住宅地の平均価格等」よりミッドポイント不動産鑑定株式会社作成

地域の核となる商業施設の撤退


近年、全国の老舗百貨店が次々と閉店するニュースをよく耳にするようになりました。
閉店の主な理由は、大型ショッピングモールやネット通販などとの競合が激しくなっていること、さらには主要な顧客であった団塊の世代が高齢化するなど、世の中の消費行動に変化が生じてきているためです。

閉店後の跡地をオフィスビルやマンションなど、他用途に転換できる立地では影響は限られますが、今後の活用が決まっていない場合には、地域の衰退や地価の変動に影響を及ぼします。

たとえば、2019年9月に閉店すると発表した伊勢丹相模原店の影響を受け、隣接する商業地の地価公示のポイントでは、平成31年の地価変動率は横ばいとなっています。
相模原市内の商業地の地価が軒並み上昇している中において、特徴的な結果となりました。
国土交通省は「大手百貨店の閉店の影響による不透明感」を主な要因として公表しています。

今後、地価下落の要因になりそうなポイント

立地適正化計画制度

最近、よく耳にする言葉で「コンパクトシティ」という考え方をご存知でしょうか。
ご承知の通り、日本では人口の急激な減少と高齢化を背景として、財政面、経済面において持続的に都市経営をすることが難しくなっている自治体が増えてきています。
医療・福祉施設、商業施設や住居等がまとまって立地し、公共交通によりこれらの生活利便施設等にアクセスできるよう都市全体の構造を見直していくことが必要だ、というものです。
このようなことから、都市再生特別措置法が改正され、コンパクトなまちづくりを促進するため、創設されたのが「立地適正化計画制度」です。

各自治体では続々と立地適正化計画を作成し、居住誘導区域(居住環境の向上、公共交通の確保等、居住を誘導する地域)や都市機能誘導区域(医療、福祉、商業等の誘導する区域)を設定しています。
いわば居住施設や都市施設を誘導する地域とそうでない地域に線引きしようということです。
これらの誘導区域に指定されなかったからといって、直ちに利用ができなくなるわけではありませんが、やはり長期的に見た場合、土地の利用に制約が出てくることから、地価に及ぼす影響が現れてくるものと思われます。

空き家問題

総務省が公表した「住宅・土地統計調査」によると、空き家の総数がこの20年(平成25年時点)で1.8倍(448万戸→820万戸)に増加しています。
そして、空き家の種類別の内訳では、「賃貸用又は売却用の住宅」等を除いた、「その他の住宅」(いわゆる「その他空き家」)が同じく2.1倍(149万戸→318万戸)となっています。

人口の減少により、下記グラフのように空き家は今後、加速度的に増えることが予想されます。空き家の増加は、老朽化した家屋の倒壊、防犯性の低下、景観の悪化など地域環境に悪い影響を及ぼします。
このように地域環境が悪化すれば、当然、住みたいという需要が減退するということになります。空き家の多い地域は、地価の下落につながっていくことが懸念されます。


(株)野村総合研究所ニュースリリース/「2018年、2023年、2028年および2033年における日本の総住宅数・空き家数・空き家率(総住宅数に占める空き家の割合)の予測」

地価上昇と下落の差、ますます大きく

地価が下落する要因の主なものを挙げてきましたが、キーワードは「人口の減少」、「災害」といえます。

「人口の減少」に対しては、インバウンド需要を積極的に取り込み、働き口を増やしたり、出入国管理法の改正により増加する外国人労働者とうまく共存したりするというのも手段のひとつとなるでしょう。

また、「災害」に対しては、逼迫する地方財政の中で、どのように効率的な政策を行い、災害に対する不安を払しょくできるかが分かれ目になってきます。

地価が上昇する地点、下落する地点の差は、今後ますます顕著になり、はっきりと明暗が分かれていくものと考えられます。
投資家の皆さんにとっても、賃貸需要者の動向や将来的に建物を取り壊したときの土地の価値などに関係してきますので、これらの要因を注意深く観察していただければと思います。

不動産投資は、立地で決まる。人口動向や賃貸需要に合わせた「新築一棟投資法」とは

堀田 直紀

不動産鑑定士・宅地建物取引士

堀田 直紀

不動産鑑定士・宅地建物取引士

不動産鑑定士試験合格後、民間最大手の大和不動産鑑定株式会社にて約11年間、収益物件をはじめとした鑑定評価業務に従事。平成29年10月、ミッドポイント不動産鑑定株式会社を設立。

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