民法改正が不動産賃貸借に与える影響 ②
平成32年4月1日に施行が予定されている改正民法により、不動産賃貸は大きな影響を受けることが予想されます。そのため、不動産賃貸オーナーは事前に改正民法の内容を理解して、準備をしておきましょう。
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今回は2回目となり、実際の条文を細かく読み解いていきます。
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1. 極度額の定め
(貸金等根保証契約の保証人の責任等)
第四百六十五条の二
一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下「根保証契約」という。)であって保証人が法人でないもの(以下「個人根保証契約」という。)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負う。
2 個人根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない。
3 第四百四十六条第二項及び第三項の規定は、個人根保証契約における第一項に規定する極度額の定めについて準用する。
第四百四十六条
保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負う。
2 保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。
3 保証契約がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その保証契約は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。
改正の背景
改正民法では、保証する期間内であれば限度額まで何度も借り入れ・返済を繰り返すことができる契約を「根保証契約」と呼び、根保証契約のうち保証人が法人でないものを「個人根保証契約」と呼んで、独自のルールを設けています。
このような改正がなされた背景には、個人が根保証契約の保証人になった場合に、その人が保証人になった当時には予想もしていなかったような重い責任を負わされるケースが多々あったため、このような根保証契約の保証人になろうとする個人を保護すべきという社会的な要請がありました。
賃貸借契約の個人保証契約も、改正民法でいう個人根保証契約に該当するので、極度額の定めに関するルールが適用されます。
ルールの中身と違反の効果
書面による極度額の設定
不動産賃貸オーナーが、個人との間で保証契約を締結する場合、「極度額」を書面等で定めなければ当該保証契約は「無効」となります(会社等の法人が保証人になる場合にはこのルールは適用されません)。
この「極度額」とは、保証契約の締結により保証人が負うことになる金額の最大限の額をいいます。
契約締結時に、保証人となろうとしている人に、自分が負うことになるリスクの最大値を書面で示すことにより、保証契約を締結するか否かを慎重に判断させようということで、このようなルールが新設されました。
極度額の設定にあたっての留意点
極度額を書面で定めなければならないとされた上記の趣旨からすれば、具体的な極度額の定めも、保証人になろうとする人に、自分が負うことになるリスクの最大値を示すものでなければなりません。
そのため、具体的な金額で1000万円と設定するような場合はもちろん、賃料12か月分というような定め方であっても、極度額が固定されていれば有効といえます。
ただし、極度額が固定されておらず事情によって変動するような定め方をしている場合、例えば、先ほどのように、極度額が賃料12か月分と設定されているものの、契約期間中に賃料が増額される可能性があり、賃料増額に応じて極度額も増額するような契約上の立て付けになっている場合には、当該極度額の定めが無効とされるおそれがあるので注意が必要です。
また、賃料に比してあまりにも高額な極度額が設定されている場合、当該極度額の定めについても公序良俗に反するものとして無効とされる恐れがあります。
極度額の定めが無効とされた場合、極度額の定めだけでなく、保証契約自体が無効となるという大きなデメリットが生じるので、極度額の設定にあたっては最大限の注意を払う必要があるのです。
2. 賃借人の説明義務違反と保証契約の取り消し
(契約締結時の情報の提供義務)
第四百六十五条の十
主たる債務者は、事業のために負担する債務を主たる債務とする保証又は主たる債務の範囲に事業のために負担する債務が含まれる根保証の委託をするときは、委託を受ける者に対し、次に掲げる事項に関する情報を提供しなければならない。
財産及び収支の状況
二 主たる債務以外に負担している債務の有無並びにその額及び履行状況
三 主たる債務の担保として他に提供し、又は提供しようとするものがあるときは、その旨及びその内容
2 主たる債務者が前項各号に掲げる事項に関して情報を提供せず、又は事実と異なる情報を提供したために委託を受けた者がその事項について誤認をし、それによって保証契約の申込み又はその承諾の意思表示をした場合において、主たる債務者がその事項に関して情報を提供せず又は事実と異なる情報を提供したことを債権者が知り又は知ることができたときは、保証人は、保証契約を取り消すことができる。
3 前二項の規定は、保証をする者が法人である場合には、適用しない。
賃借人の保証人に対する説明義務
改正民法では、賃借人が事業のために不動産物件を賃借する場合に、個人に不動産賃貸の保証人になってもらう際には、賃借人が保証人になろうとする個人に対して、以下の事項を説明する義務を負うことになりました。
- 賃借人の財産や収支の状況
- 不動産賃貸契約以外で賃借人が負っている債務の状況
- 不動産賃貸契約に担保を設定するならば、その担保の内容
保証人に、保証契約により生じるリスクを正確に伝え、保証契約の締結について慎重に検討する機会を与えることが、このようなルールが設定された理由です。
説明義務違反の効果
そして、賃借人がこの説明義務に違反し(説明自体を怠った場合や、虚偽の情報を伝えた場合など)、賃貸人が説明義務違反の事実を知ることができたときは、保証人は賃貸人との間の保証契約を取り消すことができるものとされています。
不動産賃貸オーナーとしては、自分の説明義務違反ではなく、賃借人の保証人に対する説明義務違反を理由に、保証契約が取り消されるリスクが生じてしまうことになるので、この点に関するリスクヘッジをしておくことが必要になります。
具体的には、下記のような措置が考えられます。
- 賃借人との契約で説明義務を果たしたことを表明させる
- 賃借人が説明義務違反をした場合のペナルティ条項を設ける
- 保証契約の中に賃借人から財産状況等について説明を受けたことを表明する
改正民法においては、不動産賃貸オーナーが、自分が直接関与しない賃借人の説明義務についても、何らかの措置を講じておかなければならないケースが生じるのです。
3. 賃貸人の保証人に対する債務の履行状況に関する情報提供義務
(主たる債務の履行状況に関する情報の提供義務)
第四百五十八条の二
保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、保証人の請求があったときは、債権者は、保証人に対し、遅滞なく、主たる債務の元本及び主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのものについての不履行の有無並びにこれらの残額及びそのうち弁済期が到来しているものの額に関する情報を提供しなければならない。
改正民法では、保証人(個人の保証人に限らず、会社などの法人も含む)が賃貸人に対して、賃料などの支払状況の情報開示請求をした場合には、賃貸人は当該情報を提供しなければならないものとされました。
賃借人による賃料などの支払い状況は、保証人にとって自分の保証債務を履行しなければならないか否かに直結する重要な情報であるので、賃貸人に情報提供義務を負わせて保証人を保護しようとするのが、この規定の狙いです。
賃貸人がこの情報提供義務に違反して、保証人に損害が生じた場合(例えば、情報提供があれば賃借人の財産を押さえることができたのに、情報提供がなかったことで、財産の確保が不可能になった場合など)に保証人から情報提供義務違反に基づき損害賠償請求をされるリスクが生じます。
以上今回の民法改正で生じる影響は多岐にわたりますが、しっかりと事前に勉強し、専門家に相談したうえで、今後の不動産投資に備えておきましょう。
次回は賃貸借に関する規定の改正とそのほかの全体的なルール改正について解説いたします。
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