個人の賃貸物件を同族法人に移転させる3つの方法をメリデメ比較
個人の賃貸物件を同族法人に移転させる方法として、どのような方法がありますか?
それぞれのメリット・デメリットを教えてください。
主流は「売買」。特に建物のみの売却が効率的ですが、手法により税金やコストが激増するため事前のシミュレーションが不可欠です。
大きく「売買」「現物出資」「贈与(遺贈)」の3つの方法があります。
1.売買
個人が法人に不動産を売却する方法です。
実務上もっとも多く使われています。
メリットとしては、手続きがシンプルで、売買契約書を交わして登記するだけで完了します。
登録免許税も贈与より低く(土地1.5%・建物2.0%)、税務リスクも比較的小さい方法です。
取得後5年超の物件であれば、譲渡益が出ても約20%の税率で済みますし、簿価と同額で売却すれば譲渡益自体が出ないよう調整することも可能です。
一方デメリットとしては、法人側に購入資金が必要になります。
銀行融資を受ける場合は抵当権の付け替え等の手間も発生します。
また、相続税の観点では、評価の低い貸付不動産を、評価の高い現預金に変えることになるため、相続税評価が上がる可能性がある点には注意が必要です。
2.現物出資
個人が不動産を出資して、代わりに法人の株式を受け取る方法です。
資金の用意が不要な点が売買との大きな違いです。
ただし、個人から法人への現物出資は所得税法上「時価での譲渡」とみなされ、含み益があれば譲渡所得税が課税されます。
この時価は、厳密な時価であり、不動産鑑定士による時価算出が必要になります。
つまり、不動産鑑定評価のコストがかかるということです。
さらに、増資登記など手続きコストが売買より大きく、登録免許税も一律2.0%と売買(土地1.5%)より高くなります。
現物出資も資産の譲渡に該当するため、建物部分には消費税が課税されます。この点は、売買と同じです。
さらに見落としがちなのが、法人の資本金が増えることによるデメリットです。
現物出資は増資ですから、不動産の評価額がそのまま資本金(または資本準備金)に組み入れられます。
資本金が1,000万円以上になると法人住民税の均等割が跳ね上がります。
例えば東京都の場合、資本金1,000万円以下なら均等割は年7万円ですが、1,000万円超になると18万円に増加します。
売買に比べて手間もコストもかかる割にメリットが限定的です。
「法人に購入資金がなく、融資も難しい」という場合の選択肢として検討する位置づけになるでしょう。
3.贈与(遺贈)
個人が法人に無償で不動産を渡す方法です。
生前に行えば「贈与」、遺言によって行えば「遺贈」となります。
いずれも税務上の取扱いはほぼ同じで、非常に負担が重い方法です。
まず個人側には「みなし譲渡」として、時価で売ったものとみなされ譲渡所得税がかかります。
贈与の場合は贈与者本人に、遺贈の場合は亡くなった方の準確定申告で課税されます。
対価を一切受け取っていないのに税金だけかかるという点で、心理的にも負担感の大きい課税です。
さらに法人側にも、受け取った不動産の時価が「受贈益」として法人税の課税対象になります。
つまり個人に約20%(長期譲渡の場合)、法人に約30%、合計で約50%もの税負担が発生し得るのです。
加えて、同族会社への贈与・遺贈では、会社の価値が上がった分について他の株主(配偶者や子など)への「みなし贈与」と指摘されるリスクもあります。
遺贈の場合は「みなし遺贈」として相続税の課税対象となる可能性があります。
登録免許税も土地・建物とも一律2.0%で、売買より高くなります。
節税手段としてはお勧めできません。
ただし、法人に多額の繰越欠損金がある場合は、検討する余地があります。
受贈益が計上されても繰越欠損金と相殺できるため、法人税の実負担がゼロまたは大幅に軽減されるからです。
個人側のみなし譲渡所得税は避けられませんが、法人側の約30%の税負担がなくなるのは大きなメリットです。
4.まとめ
個人の賃貸物件を同族法人に移転する方法としては、売買が最もバランスのよい方法です。
同族間売買では適正な時価で取引することが求められますが、この「時価」には実はいくつかの考え方があります。
不動産鑑定評価額、固定資産税評価額、路線価、公示価格など、採用する指標によって金額に幅が出ます。
合理的な根拠をもって低い時価を採用できれば、その分だけ譲渡益が圧縮され、個人の譲渡所得税を抑えることが可能です。
さらに有効なのが、「建物だけを法人に売却する」方法です。
土地は個人名義のまま残し、建物のみを法人に移転します。この場合、建物の売却価格を帳簿価額(未償却残高)とすることで、譲渡益がゼロとなり、個人に譲渡所得税が一切かからないようにすることができます。
どの方法を選ぶにしても、物件ごとに簿価・時価・借入金の状況によって判断が異なりますので、必ず事前にシミュレーションを行うようにしましょう。
2026/06/19
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回答者渡邊 浩滋
税理士・司法書士