令和元年版「土地白書」の要点を不動産鑑定士が解説
令和元年版の「土地白書」が6月21日に閣議決定され、国土交通省のホームページで公開されています。
今回の白書では、平成時代における土地政策を総括するとともに、「人生100年時代」を見据えた社会における土地・不動産活用の取り組みなどが取り上げられています。
土地白書というものはボリュームたっぷりなので、このコラムではポイントを整理して、お伝えしたいと思います。
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「土地白書」とは
そもそも皆さんは土地白書とはどういうものなのかご存知でしょうか。
これは、土地基本法(平成元年法律第84号)第10条第1項及び第2項の規定に基づいて、土地に関する動向及び政府が土地に関して講じた基本的な施策並びに土地に関して講じようとする基本的な施策について、毎年国会に報告しているものです。
つまり、政府が土地の現状についてどのように把握し、今後どのように策を講じていくかという方向性が分かります。
投資家の皆さんにとっても、知っておいて損はない情報かと思います。
土地に関する動向
地価・土地取引
第1部第1章では、昨年度の地価や土地取引がどうだったかということが紹介されています。
国土交通省の「地価公示」を引用し、平成31年1月1日時点における全国の地価は、全国の平均変動率では、全用途平均・商業地は4年連続、住宅地は2年連続で上昇し、いずれも上昇幅が拡大し、上昇基調を強めたと説明しています。
三大都市圏の平均変動率は、全用途平均・住宅地・商業地いずれも各圏域で上昇が継続し、地方圏の平均変動率では、全用途平均・住宅地が27年ぶりの上昇、商業地は2年連続で上昇したとしています。
住宅地については雇用・所得環境の改善が続くなか、低金利、住宅取得支援策などによる下支え効果があったとし、商業地については、景気回復に伴う企業業績の改善が続くなか、オフィス空室率は概ね低下傾向が続き、賃料が上昇したこと、インバウンド効果もあいまって、法人投資家などによる不動産投資意欲が強いことなどから、地価は総じて堅調に推移したとまとめられています。
地価変動率の推移(年間)▼
一方、土地取引について、売買による所有権の移転登記の件数では、平成30年の全国の土地取引件数は131万件となり、前年に比べると1万件減(0.7%減)になったとしています。
売買による土地取引件数の推移▼
家計と企業の土地に対する意識
白書ではこのほか、「不動産投資市場の動向」や「土地利用の動向」などの状況が説明されていますが、個人的に興味深かったのは、「家計と企業の土地に対する意識」についてです。
家計の土地に対する意識調査では、「土地は預貯金や株式などに比べて有利な資産か」という質問に対し、「そう思う」と回答した者の割合は、近年は30%台で推移していて、平成30年度は32.6%(前年度比2.4%増)となっています。これは、平成5年の61.8%と比べると、大幅に減少していることが分かります。
「土地は預貯金や株式などに比べて有利な資産か」▼
また、企業の土地・建物の所有に関する意識調査では、「今後、土地・建物について、所有と借地・賃借では、どちらが有利になると思うか」という質問に対し、「今後、所有が有利」とする企業の割合は40.4%と、前年度対比では1.2ポイント減となっています。
「今後、土地・建物について、所有と借地・賃借では、どちらが有利になると思うか」▼
「今後、所有が有利」になると考える理由については、「事業を行う上で、自由に活用できる」が54.0%と最も多く、次いで「土地は滅失せず、資産として残る」が47.9%と前年と比べ5.1ポイントも減っているという結果でした。
これは、家計についても企業についても、土地には資産性があるという認識が徐々に薄くなっているという表れなのでしょう。
平成時代における土地政策の変遷と土地・不動産市場の変化
第1部第2章では、平成時代を振り返って、土地利用についてどのような変化が見られたかを説明しています。以下は、白書から要点の抜粋です。
- 都市部の人口増加に対応した計画的な住宅・宅地の供給等により都市の市街地の拡大が進展
- 産業構造の変化等により、大都市地域の既成市街地における工場の移転等が進展
- グローバル化が進展し、訪日外国人旅行者の増加に伴いホテル等が増加するとともに、外資系企業の進出や海外からの国内の不動産への投資が活発化
- Eコマース市場の拡大等に伴う多頻度小口輸送や荷主の物流コスト削減等のニーズに対応した物流効率化等が進展する中、大規模化・高機能化した物流施設の立地が増加
- エネルギーの安定供給の確保や地球環境問題への対応等が求められる中、太陽光、風力、バイオマス等の再生可能エネルギー発電のための新たな土地利用が進展
- 多くの自然災害を経験した教訓を踏まえ、防災・減災のための地域づくりが進展
- 土地の流動化や土地の有効利用を進めるため、取引価格情報及び不動産価格指数等の整備・提供をはじめとする不動産取引市場や、不動産証券化等の不動産投資市場の整備が進展
続いて、令和時代における土地政策の展望にも触れています。
内容としては、
ということで、人口の減少がキーワードになっています。
必要な措置として、放置土地について所有者以外の者等が悪影響の除去を合理的な手続により行うことを可能にする措置、公共的目的のための利用・管理、取得を円滑化するための措置、登記(土地所有者情報の公示)の促進、地籍調査の推進、境界確定への協力などが挙げられています。
平成時代における土地政策の変遷と土地・不動産市場の変化 第2章
人生100年時代を見据えた社会における土地・不動産の活用
平成29年版はEコマースなどの成長分野による土地活用や空き地問題、平成30年版は所有者不明土地問題などにフォーカスを当ててまとめられていましたが、令和元年版の第1部 第3章では、人生100年時代の土地活用をテーマにしています。
定年退職後にも働き続けることを希望するシニアが増えている中で、起業を志すシニアを総合的に支援するサービスを提供するための高齢者向けのレンタルオフィス「アントレサロン」を例に出しています。
同レンタルオフィスでは、フリーデスクや個室等が用意されており、オフィス開設に際しては、起業に必要なノウハウを習得するためのセミナーへの参加や個別相談を受けることができるなど、人生100年時代を見据え、高齢者の生きがい創出について触れています。
人生100年時代を見据えた社会における土地・不動産の活用 第3章
また、孤立しがちな高齢者の交流の場や子どもとのふれあいの場の提供など、地域コミュニティにおける多世代交流を促す取り組みが行われていて、多様な人々が一緒に暮らし、交流できる「まち」を新たに整備し、地域コミュニティづくりに取り組む事例などが紹介されています。
高齢者のほかには、柔軟な働き方や居住地の選択にあたり、地方移住・二地域居住といった選択肢も考えられると提言しています。
さらに、都市居住者の地方移住・二地域居住を後押しする取り組みの一つとして、大都市部に本社機能を有する企業による地方部へのサテライトオフィスの設置の動きや、地方公共団体等において、地域の雇用創出や新産業の創出、空き家・空き店舗や遊休公共施設の有効活用等の観点から、これらの施設の誘致や拠点施設の整備を進める動きがあるとまとめられています。
平成30年度土地に関して講じた基本的施策
第2部では、平成30年度に講じられた施策として、地方創生・都市再生の推進、災害に強いまちづくりの推進、低・未利用地の利用促進、国公有地の利活用、所有者不明土地問題への対応方策の推進などが紹介されています。
令和元年度土地に関する基本的施策
基本的には前年度の施策を継続する形で、今後の施策を述べています。
最近の社会の変化に対応する目新しいものとして、以下のような方針が挙げられています。
- 不動産流通市場の整備・活性化としての「安心R住宅」制度*の周知等を進めることにより建物状況調査(インスペクション)の更なる普及を図る
- 「全国版空き家・空き地バンク」の更なる活用促進を図る
- サブリース業者と家主の間で家賃保証を巡るトラブルが多発していることを踏まえ、賃貸住宅管理業の適正化を図る
- 不動産投資市場の整備として、不動産特定共同事業におけるクラウドファンディングに係る規定を明確化する
- 投資家が企業に対して環境・社会・ガバナンスへの配慮を求めるESG投資の世界的潮流を踏まえた不動産の普及促進に向けて検討する
- 2020年頃にリート等の資産総額を約30兆円にする目標を達成するため、地方における不動産投資の拡大や多様かつ健全な不動産投資市場の形成を推進する
*安心R住宅とは、耐震性があり、インスペクション(建物状況調査等)が行われた住宅であって、リフォーム等について情報提供が行われる既存住宅のことをいいます。
安心R住宅
まとめ
土地白書は、土地に関する事柄についてまとめられ、毎年公表されるものです。
個々の施策などについて、詳細に把握することは難しいと思いますが、目まぐるしく変化する社会において、政府がどのようなことを推進しようとしているのか、反対にどのようなことに規制をかけていこうとしているのか、大枠を理解するには役立つものだと思います。
皆さんもお時間あるときに、白書全体を眺めてみるのも良いかもしれません。
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