不動産投資コラム

消費税増税と不動産投資②前回の増税から考える対策

2020/02/16
行政書士棚田 健大郎
消費税増税と不動産投資②前回の増税から考える対策

消費税が10%に増税されると、不動産投資にも大きな影響がありそうなことは、前編(消費税増税と不動産投資①) でお分かりいただけたでしょうか。

後編となるこちらでは、前回(2014年)の消費税が5%から8%に増税されたときに生じた影響を分析することで、10%への増税の際に事前に講じておくべき対策について考えていきます。

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2014年4月に5%→8%引き上げられた時の影響

昨今の消費税増税については、1997年に3%から5%、2014年に5%から8%に増税がされていますが、「内閣府の年次経済財政報告」の2015年度版によると、2014年の増税の際の影響が1997年に比べて強かったと考察しています。

データによれば、2015年の実質GDP成長率については前年比で0.9%落ち込んでおり、消費税増税後の個人消費の回復が弱かったようです。

消費税増税で個人消費が落ち込むメカニズム

消費税が増税すると、ものを購入する際の価格が上昇するため、実質的に物価上昇がおこります。それに伴って家計の購買力については実質的に低下するため、結果として個人消費が落ち込むことになるのです。

こうしたメカニズムを事前に理解していたからか、2014年の春闘では、定期昇給を含む賃金引上げ率については、実に15年ぶりとなる2.07%も引き上げられていました。

賃金引き上げがあったにも関わらず、個人消費が低迷した背景には、みなさんもよく知っているある現象が関係していたのです。

「駆け込み需要」による反動減

2014年の増税時における個人消費の低迷の大きな要因となったのが、駆け込み需要による反動減です。

1997年における駆け込み需要は2兆円規模と考えられていましたが、2014年における駆け込み需要については、3兆円程度と推定されており、増税後の個人消費を引き下げる大きな要因となったと考えられています。

駆け込み需要が増加した要因の1つに、増税された税率も関係しているようです。
2014年における増税率は5%から8%と3%の増税であり、前回の2%の上昇よりも大きかったことが理由として考えられます。

2019年の増税率は8%から10%と2%の上昇にとどまるため、前回ほどの個人消費の落ち込みはないかもしれませんが、それでもある程度の影響が出ると考えるべきでしょう。

2019年の駆け込み需要を増大させる、もう1つの要因とは

東京五輪
前回の増税と大きく違う点、それは2019年が東京オリンピック・パラリンピック開催の前年であるということです。

以前に別のコラムでも触れましたが、東京五輪開催が決まった2013年に、東京都内を中心に多くの投資家が物件を購入しており、それが2019年になると短期譲渡所得から長期譲渡所得に変わり所得税の税率が半分になるため、東京オリンピック開催前年ということも後押しして、利益確定で売りに出る物件が増える可能性があります。

そうなると当然、消費税が増税になる前の方が、売主、買主双方にとってメリットがあるため、都内の不動産投資物件については、2019年10月までに、駆け込み需要によってかなりの取引が発生する可能性が考えられるでしょう。

管理費の便乗値上げに注意

前回の増税時には「管理費の便乗値上げ」という問題も浮上しました。

通常、管理委託契約書に記載されている管理費については、「総額表示」をするよう指導を受けているため、仮に毎月引き落としされている金額が3,600円であれば、3,600円税込という意味になります。

よって、消費税が増税になった場合、値上がりする金額については3,600円から現状の消費税8%を抜いた金額である3,333円に対して10%課税されるため3,666円となるはずです。

ところが前回の増税時には、これまでは消費税を管理会社側で負担してサービスしていたが今後は外税とする、との論拠によって、管理委託契約書記載の3,600円の外税である3,888円にされたというケースが発生しました。

前回の増税後、税込なのか、税別なのか管理委託契約書にはっきりと表記するようになっているため、2019年の増税の際には便乗値上げは減ると考えられますが、現状の管理委託契約書に消費税についてはっきりと記載がない場合については、注意したほうがよいでしょう。

賃貸経営への影響は?

引っ越し需要低迷
個人消費が落ち込むということは、引越し需要も低迷することが予想されます。

家賃や礼金には消費税は課税されませんが、仲介手数料には消費税が課税されるため、賃貸借契約についても一定の駆け込み需要が発生することが予想されるため、増税後に空室が発生すると、空室期間が通常よりも長引く可能性が考えられるでしょう。

家賃は値上げできるのか?

消費税増税によって、管理費や修繕費など不動産投資にかかる経費は相対的2%上昇することになります。不動産投資家としては、この上昇分を家賃に転化して値上げしたいと考えることでしょう。

ですが、物価が上昇している状況下では個人消費が落ち込むため、家賃については値上げするどころか、値下げ交渉をされるリスクの方が高まる可能性が考えられます。

家賃については、賃上げなどによって消費者の収入が上昇しなければ、ほとんど期待できないと考えたほうがよいでしょう。

不動産投資家として今からすべき消費税増税への3つの対策とは?

家賃の値上げは難しい状況ですが、それ以外にも消費税増税前にできる対策はあります。

対策1:共用部分の修繕の前倒し

築年数が10年にかかる物件を所有している場合については、増税前にできるだけ高額になる修繕について前倒しで実施しておくことがとても重要です。

施工費用が10万円前後でも収まる原状回復工事とは違い、建物共用部の修繕工事については、数百万から1千万円を超えるものもあるため、消費税が2%上昇するだけで10万円以上も経費が変わってくる可能性があります。

建物の維持に必要な修繕については、遅かれ早かれ必ず必要になるため、できるだけ増税前に施工しておくことがおすすめです。

対策2:新しい物件の資産を組み換えする

資産組み換え
今後高額な修繕が発生しそうな古い物件を所有している場合は、発生する可能性が高い駆け込み需要を逆手にとって売却して、別の新しい物件に資産を組み換えするのもよいでしょう。

2019年は、オリンピック前に売りたい人(供給)と、増税前に買いたい人(需要)がうまくマッチングする可能性があり、価格が高騰する可能性も十分考えられます。

また、自分自身が売主で免税事業者であれば、物件価格(建物価格)に消費税が課税されることはないため、増税による影響も最小限に回避することができるのです。

できればこのタイミングで売却しておき、オリンピックが終わったあとに価格が値下がりしたタイミングで新しい物件を再度購入することで、リスクを最大限回避することができるでしょう。

対策3:お金をかけずに空室率を減らす

増税後も引き続き今の物件を所有し続けるという方については、これまでと同じ経営手法ですと、単純に増税による2%分キャッシュフローが悪化してしまう可能性が予想されます。

その分を家賃に転化することは難しい状況下で取るべき対策は、ずばり「空室対策」です。

あまり自覚のない大家さんが多いのですが、家賃を1,000円値上げするよりも、空室期間を1ヶ月縮める方が、実質的には利益につながることが多いのです。

空室対策というと、家賃を下げる、礼金を下げる、リフォームをする、ADを出す、など出費がともなうことが前提だと思われがちですが、実は、出費なしで空室率を下げられる方法もあります。

退去予告期間を60日に変えるだけで、空室は減る

多くの大家さんが、賃貸借契約の退去予告期間を1ヶ月前で運用していますが、これを倍の2ヶ月前に変更することで、募集期間が2倍確保できるため、募集条件を値下げしなくても、家賃が切れるまでに次の入居者が決まる可能性が高くなります。

賃貸募集においても、退去予告期間はそこまで影響しないため、まだ1ヶ月前で運用されている方は、今後のことも考えて2ヶ月前に変更して運用することを検討してみてはいかがでしょうか。

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おわりに

不動産投資には消費税が密接に絡んでいるため、消費税10%への増税によって各方面に影響が出てくることは間違いないでしょう。不動産投資家としてやるべきことをまとめると、以下の通りです。

  • 高額になる修繕は増税前に「前倒し」で実施する
  • 「駆け込み需要」を逆に利用して、資産の組み換えを検討する
  • 家賃の値上げではなく、「空室対策」で増税分を補填する

消費税増税は誰にとってもよいニュースではありませんが、増税による影響を先読みして対策をとることができれば、他の投資家と差をつけるチャンスとなるでしょう。

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棚田 健大郎

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棚田 健大郎

行政書士

大手人材派遣会社、不動産関連上場会社でのトップセールスマン・管理職を経て独立。棚田行政書士リーガル法務事務所を設立。現在に至る。

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