増え続ける所有者不明土地、売買はできるのか?
東日本大震災を経て顕著になった所有者不明土地問題。その広さは全国で約780万ヘクタールと言われており、四国はもちろんのこと、九州の土地面積を超え、国にとって大きな経済損失となっています。
ではこの問題、実際に不動産投資家にどのような影響があるのでしょうか?
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なぜ所有者不明の土地が増えるのか?
そもそも「所有者不明土地」とは、不動産登記簿等の所有者台帳により、所有者が直ちに判明しない、または判明しても所有者に連絡がつかない土地のことをいいます。
例えば、所有者を特定したとしても転居先が追えないなどの理由で、その所在が不明である土地や登記名義人が死亡し、相続登記が何代にもわたり放置され、相続人が多数となってその所在の捜索が困難となっている土地です。
所有者不明土地の大きな原因とされているのが、相続登記の未登記です。
不動産の所有者に相続が発生した場合、その相続人に引き継がれることになり、それに伴い不動産の名義も相続人に変更するのが通常です。
しかし、この相続登記は義務ではなく、また、相続による名義変更をしなくても、納税通知書の送り先を特定の相続人に変更できるなど、何ら不都合がありません。
実際に相続した不動産を売却したり、担保に入れたりするときに初めて相続登記の問題が表面化してきますので、長期間放置されがちになります。
また、相続登記を放置している間にさらに相続人に相続が発生し、手続きが複雑化してきてしまいます。そもそも戸籍からすべての相続人を確定させる必要があるため、一般の方にとっては、戸籍を収集することもかなりの負担です。
二次相続・三次相続と続くことによって、当初の相続人からさらに相続人の人数が増え、その相続人もまったく面識がなかったり、相続人の所在が不明で連絡を取ることが困難になります。手続きにかなりの時間や費用が掛かってしまうためそのまま放置してしまうことが多々あるのです。
そして、相続登記が進まない理由の一つとして、土地の資産価値の変化にあるとされています。
これまでは、不動産には資産価値があるとされてきました。
東京や大阪などの首都圏では、土地の価格が上昇傾向にありますが、地方では反対に価値が下がってしまい、都市圏との差が広がるばかりです。地方の不動産ですとなかなか買い手が見つからなかったりで、手続きが進まず、相続人がどうしていいかわからずそのまま登記申請を放置してしまうこともあります。
不動産を所有しているだけで毎年固定資産税などの税金も掛かってきますし、管理費の負担もかなりのものになります。
つまり、不動産を所有することが資産としてではなく、負の遺産としてそのまま放置され、問題が拡大してしまいます。
所有者不明土地を売買することができるか?
共有している土地や建物を売却したいけど共有者の一人の所在が分からない場合や、相続が発生しているが相続人の行方が分からないなどの場合に、その不動産を売ったり買ったりすることができるのでしょうか。
1. 登記内容の確認
まずは、土地や建物の権利関係を把握する必要があります。登記事項証明書には、所有者は誰なのか、抵当権や仮登記などの担保権が設定されているのかが記載されています。
そして、権利関係によってどのような手続きが必要なのかを確認しなければなりません。
また、必要があれば、隣地の土地との境界を調べるため、公図や地図を取得したり、境界確定の手続きをすることも考えなければなりません。
2. 所有者・相続人の調査
登記事項証明書には、現在の登記簿上の所有者の住所と氏名が記載されています。
しかし、所有者が今現在も登記簿上の住所に住んでいるとは限りませんし、すでに所有者が亡くなっていて相続が発生していても、登記事項証明書を見ただけではそのような事実が判明しません。
本来、住所変更手続きや相続登記を経るべきですが、そのような手続きがなされずに放置されてしまっているケースも数多く存在します。
そのような場合、所有者の住民票などを取得し、現在の住所を調べたり、所有者に相続が発生している場合には、戸籍を取得し、相続人を調査する必要があります。
ただし、勝手に他人の戸籍等を取得することはできませんので、場合によっては専門家に手続きを依頼することも検討しなければなりません。
3. 不在者財産管理人の選任
所有者不明不動産を売却するための手続きとして、不在者財産管理人の選任を申立てる方法があります。
例えば、共有している土地や建物を売りたいときに、その共有者のうちの一人の行方が分からず所在が不明な場合、管轄の家庭裁判所に申立てを行い、不在者の財産を管理する「不在者財産管理人」を選任してもらいます。
そして、選任された不在者財産管理人は、家庭裁判所の許可を得て、所在不明者に代わって、他の共有者と協力して共有している不動産を売却することができます。
また、共有者の一人につき相続が発生し、その所在が不明の場合にも同じ手続きを経る必要があります。相続人が複数人いる場合には、遺産分割協議を行わなければなりませんが、不在者財産管理人が所在不明者に代わって遺産分割協議に参加します。
4. 相続財産管理人の選任
不在者財産管理人選任のほか、相続財産管理人の選任の申立てが必要な場合があります。
例えば、不動産の所有者に相続が発生しているもしくは共有者の一人につき相続が発生しているが、法定相続人となるべき者がいない場合や遺言書がない場合には、管轄の家庭裁判所に「相続財産管理人」を選任してもらいます。
相続人はいるが、相続人全員が相続放棄をした場合も同様に相続財産管理人選任の申立てが必要となります。
この相続財産管理人は、相続財産の管理を行い、相続人の調査や債権者に対して債務の弁済等を行います。
そして、相続人ではないが、亡くなった方と特別な関係にあった特別縁故者がいる場合には、特別縁故者に相続財産である不動産を分与することができます。
また、共有者の一人に相続人も特別縁故者もいない場合には、亡くなった共有者の持分は、他の共有者に移ることになりますので、共有していた不動産を売却することができるようになります。
所有者不明の不動産に対する日本政府の対策
所有者不明土地の問題が顕在化してから、日本政府も法律の改正に着手しました。
まずは、政府は国土調査法を改正し、土地の所有者や面積などが記載された地籍を整備し、客観的な資料などがあれば所有者の立ち会いなしで地籍を確定できる制度の条件を緩和するとしました。
また、不動産の所有者の氏名や住所が正確に登記されていないなど、登記が変則的になっているものについて、法務局の登記官が職権で所有者を捜せるようにするための制度を整えることを決めました。
その中で、いままでバラバラだった登記と戸籍の情報を連携させ、不動産の所有者を調べることができるシステムを構築し、自治体が把握している不動産の所有者の死亡情報と国が管理する登記情報とを結び付け、誰が現在の所有者なのか迅速に調べられるようになります。
そして、現在では手続きをするかどうか任意となっている相続登記の義務化が検討されています。これは、相続登記を行うことによって、二次相続・三次相続が起きた場合に相続人が分からなくなることを防ぐためです。
さらには、管理が難しくなった不動産を放棄することができる制度の検討にも入るなど、今後、所有者不明土地を有効に利用することができる制度の整備が進んでいくものと思われます。
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