不動産投資コラム

調査結果/新型コロナが不動産市況に及ぼす影響

不動産鑑定士堀田 直紀
調査結果/新型コロナが不動産市況に及ぼす影響

今年の1月頃から世界的に流行し、深刻な影響を及ぼしている新型コロナウイルス。
いまだ世界的には収束の兆しは見えず、今後不動産市況はどうなっていくか見通せない状況にあります。

このようななか、コロナの影響を加味した最新の不動産投資家調査や指標が発表されつつあります。
今回のコラムでは最近発表されたもののうち、いくつかをご紹介させていただこうと思います。なお、刻々と状況は変わっていきますので、各調査の時点に注意していただけたらと思います。

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「新型コロナウイルスによる不動産市場への影響」についてのオンラインアンケート

JLL日本法人が2020年5月26日に発表した、不動産投資家(デベロッパー、アセットマネジャー、資産管理会社、国内外ファンド、金融機関…)が市場をどのように見ているか、投資意欲などについての調査です。

この調査によると、投資家の約 75%が今後も積極的に不動産へ投資する考えをもっています。
「物件のクオリティさえよければ新型コロナウイルス発生前と変わらぬ価格で新規投資を積極的に行う」は7.7%とやや少なかったものの、「価格調整があれば新規投資を積極的に行う」が67.2%と多くの投資に前向きな姿勢が見られます。

投資スタンス

また、物件取得価格水準については「5~15%下落する」と考える投資家が65.5%と一番多い結果となりました。
投資家の実に約9割が「5%以上下落する」と回答し、新型コロナウイルス感染拡大の影響が不動産価格の下落につながり、一定の価格調整があると見ていることがわかりました。

物件取得価格水準

また、今後の投資戦略については、オフィス、レジデンシャル、物流という回答が多く、全体の6割以上を占めています。
インバウンド需要に支えられてきたホテル、リテール(商業施設)については、コロナの影響が大きく、投資対象としての関心は低位に留まっています。

オフィスは依然として人気ですが、景気に比較的左右されず安定感のあるレジデンシャルや、契約形態が長期であり生活必需品の需要増に伴って追い風となっている物流への関心度が高くなっているようです。

投資戦略

今後の投資で最も重要な点は「価格の妥当性」という回答が多かったですが、それを確信できるだけの情報が不足していることがあげられます。
投資意欲は旺盛であるものの、現時点では様子をみている投資家が多いということが、このアンケートからうかがい知れます。

参照:JLL、新型コロナウイルスによる不動産市場への影響について投資家調査を実施

第42回「不動産投資家調査」(2020年4月現在)

日本不動産研究所によって定期的に行われている「不動産投資家調査」ですが、第42回の調査には、時期的にコロナの影響がまだあまり反映されていないことから、特別なアンケートが追加で実施されています。
2020年5月26日に発表された「新型コロナウイルス感染症の拡大が不動産投資市場に及ぼす影響について」の結果を見てみましょう。

予想される通り、新型コロナウイルス感染症の拡大により、96.9%の投資家が今後「ネガティブな影響があるだろう」と回答しています。
すでにこれまで、「歩合賃料の減少等、運用物件に収入減が見られている」という回答が多くみられました。

この調査で注目したいのは、今後1年間の市場動向について、アセットごとに回答を得ていることです。
これによると、前記JLLの調査でもあった通り、ホテル、商業施設に対して、「ネガティブな影響がかなりある」とされる一方、レジデンシャル(ワンルーム・ファミリー)、物流施設、底地、ヘルスケア施設については「ネガティブな影響はあまりない」と、アセットごとに新型コロナウイルス感染症が及ぼす影響に濃淡が出ています。

市場動向コロナ影響

また、コロナの流行が今後収束したと仮定した場合でも、商業施設、ホテルについては、「反転回復までに、1年程度の期間を要する」という回答が最も多く、これらについては早期回復が難しいと考えていることも明らかになっています。

参照:一般財団法人 日本不動産研究所/第42回不動産投資家調査(2020年4月期)の特別アンケートの結果について

インベストマーケットビュー(2020年第1四半期)

CBRE日本法人が四半期毎に実施している「不動産投資に関するアンケート 期待利回り(回答 期間:3月11日~4月14日)」によると、東京ではホテル(運営委託型)、商業施設(銀座中央通り)、賃貸マンション(ワンルーム)が前期から期待利回りが5ps~20bps上昇しました。
また、ホテル(運営委託型)は2期連続で上昇しています。

同調査で東京の主要アセットの期待利回りが2期連続で上昇したのは2009年以来、およそ10年ぶりとなり大きな転換点を迎えています。

そのほか、オフィス、 物流施設、賃貸マンション(ファミリー)については横ばいで最低値を維持しており、この調査においても、投資対象となり得るアセットとして認識されているようです。

しかし、新型コロナウイルス感染症の収束が不透明な状況では、売主と買主の価格目線が乖離しやすく、今後投資額は抑制される見込みであることも報告されています。

同調査の中で、CBRE短期指数(DI)※というものがあります。
比較的安定している都区部Aクラスオフィスビルにおいても、不動産取引量、売買取引価格などいずれの項目においても2020年3月期は、前期に比べ大幅にポイントが落ちており、調査時点での投資家の不安が現れています。

CBRE短期指数

※CBRE短観指数(DI=Diffusion Index)は改善すると答えた回答者の割合(%)から、悪化すると答えた回答者の割合(%)を引いた指数
期待利回りDIは、低下すると答えた回答者の割合(%)から、上昇すると答えた回答者の割合(%)を引いた指数

感染が収束する兆しが見えてくれば、再び投資額は増加すると予想されているものの、まだまだ予断を許さない状況にあるということでしょう。

参照:CBREが投資市場動向(2020年第1四半期)を発表

Daily PPI(2020年3月)

前記3調査とは系統が異なるものですが、「Daily PPI」というものがあります。
不動産価格については、公示地価や不動産価格指数など、すでにいくつかのインデックスが公表されていますが、発表までのタイムラグや公表頻度において弱点があるともいわれています。

この「Daily PPI」では、J-REIT投資口価格で純資産の時価総額を求めつつ、さらにバランスシート全体の評価をすることにより、資産サイドの保有不動産の時価総額を算出します。
これを各物件価格に配賦したうえで統計的な手法を用いて標準化し、実物不動産の価格を指数化するというものです。
求め方が複雑ではありますが、タイムリーかつ高頻度に不動産価格の動向を把握することができるひとつの指標として注目されています。
 
株式会社三井住友トラスト基礎研究所のレポートを参照すると、住宅(東京主要5区)と物流施設(1都3県)の下落幅は、ほかのタイプよりも小さいことが分かり、3月末にかけての上昇幅が相対的に大きく、2月頭と比べると、3月末のDaily PPIは約10%の下落に留まっていることが分かりました。
同調査のホテル(東京23区)は、30%以上も下落していることから比べると、住宅や物流施設のディフェンシブアセットとしての本領が発揮されている動向が観測されているといえます。

参照:三井住友トラスト基礎研究所「Daily PPIから読み解く2020年3月の不動産価格の変動-Covid-19の影響-」

まとめ

不動産市場は、実体経済や金融市場と密接に関係してくるために、新型コロナウイルス感染症が収束していない現状において、その予測をすることは非常に困難です。

しかし、このような状況のなか、手元資金が潤沢であったり、十分な融資を引くことができたりする投資家にとっては、物件取得の好機ととらえている様子もうかがえます。
現状では投資家の利回り目線は一段高くなり、物件の所有者との価格目線が乖離しているものと考えられますが、投資家は今後価格の折り合いさえつけば、アセットによっては積極的に物件を取得していくと思われます。

状況は日々変化していきますので、今後発表される調査結果や指標を上手に見極めていきたいところです。

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堀田 直紀

不動産鑑定士・宅地建物取引士

堀田 直紀

不動産鑑定士・宅地建物取引士

不動産鑑定士試験合格後、民間最大手の大和不動産鑑定株式会社にて約11年間、収益物件をはじめとした鑑定評価業務に従事。平成29年10月、ミッドポイント不動産鑑定株式会社を設立。

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