令和2年地価公示/鑑定評価した不動産鑑定士が解説
3月下旬に令和2年地価公示の公示価格が発表されました。新聞やネットニュースで取り上げられていましたので、皆さん少しはご覧になられたかと思います。
そこで、今回のコラムは、今年の地価公示の結果と傾向について、記事にしてみたいと思います。
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地価公示/公表された変動率に違和感?
まず、皆さんは今年の公示価格をご覧になられて、どのような感想をお持ちになられたでしょうか。
率直に申し上げて、公表された変動率に違和感をお持ちになられた方が多かったのではないかと思います。
…と言いますのは、今年の1月初旬に中国の武漢市で、新型コロナウィルスの感染が初めて確認され、またたく間に中国だけでなく、早い段階で日本でも広まり、世界中に感染が拡大しています。
この記事を書いている段階においても、悪化の一途をたどり、世界中で多数の死者が出たり、出入国制限などが勧告されたり、ますます予断を許さない深刻な状況に陥っています。
当然のように市場関係者は先行きの不安を察知し、過去にあまり例がないほど株価は大きく値を落とし、世界経済が大きな打撃を受けています。
各国、巨額な資金を投じて、経済対策を講じるのに躍起になっていますが、市場の不安を払拭することはできず、株式市場をはじめとする投資環境は不安定な状況が続いています。
このように経済が不安定になってくると、不動産価格も無関係ではありません。
これまで積極的な姿勢を見せていた国内外の投資家は先を見通せず、投資に慎重にならざるを得ません。
たとえば、商業施設であれば、消費者の心理状態が冷え込み、売上高の減少に直結するでしょうし、近年急成長してきたインバウンド(訪日外国人)をターゲットにしてきた観光地であれば、出入国制限により観光客が激減し、期待していた収入見込みが立たないなどの影響があると思われます。
そして、経済が低迷するということは、売上を支払いの原資とする家賃を負担することができず、賃料の減額や撤退が起こり、不動産の価格自体も下がっていくことが予想されます。
また、企業は業績低迷のために、所有していた不動産を売りに出さなくてはならない状況も考えられます。
市場に売りたい人が増える半面、購入を希望する人は少ないため、徐々に地価に悪い影響が出てくることが想定されます。
このように新型コロナウィルスの状況は、今後の地価に大きく影響を及ぼすものと思われます。
地価公示は毎年1月1日時点の価格
ここで、あらためて今年の地価公示の結果を見てみると、「全国の全用途平均は上昇」と、実感とはちがった発表がなされています。
地価公示の価格は、あくまで「毎年1月1日時点」の価格です。
公表されるのが3月下旬ということで、1月1日以降に顕在化した新型コロナウィルスの影響が今回は含まれていないということをご注意いただきたいと思います。
私も地価公示の鑑定評価員をしているのですが、昨年の夏頃から徐々に市場動向や取引の事例などを調査して、ようやく今年の1月1日時点の価格を鑑定します。
その後、国土交通省の土地鑑定委員会が妥当性を検証し公表するのですが、どうしても時間のずれが生じてしまいます。
例年はこれほどまでにこの間の変動要因を気にすることは少なかったのですが、今年は特に気にかける必要がありそうです。
このように現状ではやや違和感をおぼえる公示地価ではありますが、毎年同じ時期の継続的な変動をあらわし、各種取引や課税をする際の指標となってくる公示地価ですので、重要なことには変わりありません。
前置きが長くなってしまいましたが、これらのことを念頭において、以下の記事を読み進めていただければと思います。
地価公示など地価の指標に関する記事を過去にまとめていますので、ご覧ください。
土地の値段は「一物五価」!? 目的と価格の違い
全用途で上昇基調/全国の概況
まずは、全国の概況から見てみましょう。
平成31年1月1日からの1年間の地価は、全国平均では、全用途平均が5年連続の上昇となり、上昇幅も4年連続で拡大し、上昇基調を強めました。
用途別では、 住宅地は3年連続、商業地は5年連続、工業地は4年連続の上昇となっていて、すべての用途で上昇しています。
また、三大都市圏(東京圏・大阪圏・名古屋圏)では、全用途平均・住宅地・商業地・工業地のいずれについても、各圏域で上昇が継続していて、東京圏と大阪圏では上昇基調を強める結果となりました。
さらに地方圏では、全用途平均・住宅地は2年連続、商業地・工業地は3年連続の上昇となり、いずれも上昇幅が大きくなっています。
地方圏のうち、地方四市(札幌市、仙台市、広島市及び福岡市)ではすべての用途で上昇が継続し、同じく上昇幅が大きくなりました。
地方四市を除くその他の地域においても、全用途平均・商業地が平成4年以来28年ぶりに上昇、住宅地 は平成8年から続いた下落から横ばいとなり、工業地は2年連続の上昇となっています。
全般的に上昇していますが、特に前年より上昇幅が大きくなったところを、下表にてオレンジ色で示しています。
国土交通省ホームページ、令和2年地価公示「圏域別・用途別対前年平均変動率」を一部加工
台東区が上位を占める/東京都の概況と変動率上位地点
次に東京都の概況です。
まず、商業地の変動率ですが、商業地においては、全区分とも上昇し、しかも上昇幅は拡大しています。
一方、住宅地においては全区分で上昇していますが、上昇幅が拡大しているのは、千代田区、中央区、港区などがある区部都心部でのみであり、商業地に比べ上昇幅という面ではやや落ち着いている印象がありました。
区部都心部:千代田区、中央区、港区、新宿区、文京区、台東区、渋谷区、豊島区
区部南西部:品川区、目黒区、大田区、世田谷区、中野区、杉並区、練馬区
区部北東部:墨田区、江東区、北区、荒川区、板橋区、足立区、葛飾区、江戸川区
国土交通省ホームページ、令和2年地価公示「東京圏の地域別対前年平均変動率」を一部加工
次に東京都の商業地の変動率上位順位表をみてみると、上昇率上位5位までのうち、1~4位までが台東区の地点が占めており、20%を超える大きな上昇率となっています。
台東区と言えば浅草など外国人観光客に人気のエリアであり、予定されていた東京五輪・パラリンピック開催を控え、大いに盛り上がりをみせていたということが大きな要因です。
ただし、前述のように、新型コロナウィルスの感染拡大により、インバウンドが激減しています。
さらに先日、東京五輪・パラリンピックの開催が1年延期されることが発表されました。
したがいまして、このようなインバウンドの多寡により、経済情勢が左右されるような地域では、今後、新型コロナウィルスの事態が収束に向かうのか、1年後に観光客数が回復するのかによって、地価にも大きな影響を及ぼしていきますので、今後、注視していく必要があります。
その他、特徴的な変動を示したのは、3月に開業した高輪ゲートウェイ駅近くの地点(港-19)です。
この地点は住宅地として東京圏の第1位の上昇率となりました。
1月1日時点では開業前でしたが、新駅の誕生により、利便性の向上と更なる地域の発展が期待されることから、マンション用地に対する需要が強くなったことが主な要因となりました。
インバウンド需要地で上昇/その他変動率上位地点と下落地点
そのほかの地域においても、上昇率の上位にランキングしたのは、インバウンド需要が伸びていた北海道虻田郡倶知安町、沖縄県那覇市、大阪府大阪市中央区などでした。
スキーリゾートとして知られるニセコ圏域の倶知安町は、欧米や東南アジアのスキー客から人気の高いところです。
もともとの地価が安かったことから、ここ数年、毎年50%程度の地価上昇を示しており、際立った上昇率となっています。
令和2年は、商業地の地点(倶知安5-1)は57.5%で全国第1位となっています。
台湾や韓国からビーチリゾートとして人気のある那覇市の地点(那覇5-8)は45.9%、食文化、アミューズメント、買物客の需要を取り込んでいる大阪市中央区の地点(大阪中央5-2)は44.9%と高い上昇率でした。
このように大きな上昇を示す地点には、近年、観光客の誘致に成功している地点が目立っています。今後、インバウンド激減のあおりを受け、それ次第で地価上昇にも陰りが見られるかもしれません。
あわせて読みたい
国土交通省ホームページ、令和2年地価公示「商業地の変動率上位順位表(全国)」を一部加工
次に地価が大きく下落した地点にも触れておきたいと思います。
昨年の台風19号で大きな被害を受けた長野市の住宅地が全国で最も大きな下落幅となりました。
千曲川の堤防決壊による被災の程度が甚大であったことがあげられ、下落第1位の地点(長野-38)では▲13.6%と、大きな下落となりました。
新型コロナの地価への影響は
再三申し上げてきましたように、現状では、新型コロナウィルスとそれに伴う景気後退の懸念から、地価の把握がとても難しい局面といえます。
今年の地価公示にはその影響が反映されていませんでしたので、今後の国土交通省の地価LOOKレポート(次回は令和2年4月1日時点の四半期変動率、公表は6月頃)や都道府県地価調査(次回は令和2年7月1時点の価格及び変動率、公表は9月頃)などで、最新の地価の動向をチェックされるとよいと思います。
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