直下率と耐震性はイコールではない/一級建築士
近年、大型の地震による被害が増大しています。
100年に一度の規模、と言われているような大きなクラスの地震が頻繁に発生していますから、「耐震性」については非常に関心が高くなっていますね。
最近耳にする「直下率」という言葉をご存知でしょうか?
今回は直下率と耐震性の関係について解説いたします。
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直下率とは
直下率は建物の耐震性を左右する指標と言われていて、“ % ”で表されます。
直下率は簡単に言えば、柱の位置と壁の位置が上下階でそろっている割合で、この数値が高いほど、安定した建物ということになっています。
下の図面のように、壁の位置が上下階でずれていると直下率は低くなります。
直下率は、建築基準法や構造の専門書には載っていない「目安」で、熊本地震以降に報道されるようになったワードの為、最近耳にするようになりました。
住宅やアパートの耐震性とは
昔の建物では「通し柱が重要」という概念があります(間違ってはいません)。
力がきれいに伝達するためには「構造計画が重要だよ!」ということです。
一般的に安定した構造は下図のように柱を上から下まで通した形で計画されます。
青い矢印が力の伝達する方向をイメージしたものですが、シンプルに下階柱に伝わります。
しかしながら、直下率そのものがとりわけ耐震性に重要であるかどうかは疑問点もあります。
特に、近年では部材や工法の発展により平面計画の自由度が増しています。
平面計画とは、間取りの計画のことで「リビングをあと5cmずらしたい」などに対応できるように、様々な工法が開発されています。
木造建築でも、集成材や金物固定による技術革新が進み、直下率だけで、耐震性が高いと判断することはできないので注意が必要でしょう。
大手のハウスメーカーでは、住友林業「ビッグフレーム構法」、積水ハウスが「βシステム構法」といった構法で建築をしています。
ビッグフレーム構法は、梁勝ちラーメン構造※1 なので上下階の通し柱が不要。そのため、各階の柱の位置を同じにする必要がなく、各階ごとに空間を構成できます。最大1.82mのキャンティレバー※2 をつくることも可能なので、駐車スペースの上を居住空間として活用したり、広いバルコニーをつくったりすることができます。また、構造をそのまま活かし、将来的な間取り変更などにも柔軟に対応できます。
優れた耐震性を確保しながら、設計の自由度を飛躍的に高めています。
※1 梁勝ちラーメン構造
最初に梁を水平方向に計画し、その間の柱を「ある程度」自由に計画する考え方です。しかしながら、上からかかる力は下の柱へ伝達される際に、回転する力(モーメント力)が常時加わることになります(下図参照)。
※2 キャンティレバー
張り出しの一端が建築物に固定されて、片方は固定されていない構造のことです。
柱を自由に計画できるのがウリで、間取りの提案に関してはフレキシブルに対応が可能です。
ただし…あくまで構造の安全を確認しての話しですが。
構造計画の基本は、あくまで加わった力が各部材にスムーズに伝達されることです。
つまり、建物バランスが重要です。
これは耐力壁(強い壁)の配置計画や、建物の平面上の形によって大きく左右されます。
スキップフロアや、中庭など平面・断面計画がいびつな場合には、特に構造上の安全性を確認することが重要です。
直下率だけで住宅の耐震性は測れない
くれぐれも、直下率が高いから、耐震性能が高いとはなりませんから注意してください。
直下率の目安は60%以上と言われることもありますが、この数字だけでは耐震性を測れないのが実情です。
建物外形、断面計画、梁や柱の部材の寸法を適切に計画することが重要です。
わが国の建築基準法では「木造2階建ては構造計算を実施しなくてよい」などといった、とんでもない法律がありますが、耐震性を確認するには構造計算も必須となります。
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