家賃減額請求の防止法と民法改正がもたらす影響
第2回までの記事をお読みいただき、家賃減額請求をされた場合の、およその金額の目安や考え方についてはお分かりいただけたでしょうか。
連載第3回目となる今回は、家賃減額請求を防ぐ方法や、管理会社に委託することのメリット、そして2020年の民法改正が家賃減額請求にもたらす影響について解説します。
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設備不良による家賃減額請求を防ぐためには
賃貸によって利益を上げている以上は、借主に対して「通常通りの使用ができる状態」を提供しなければなりません。ただ、修理や交換が終わるまでのわずかな期間については、ある程度借主にも不便を許容してもらう必要もあります。
家賃減額請求という借主からの要求にその都度応じていると、ことあるごとに様々な要求をされる可能性も出てくるため、貸主側の視点としては安易に家賃減額請求には応じない方がよいでしょう。
丁寧な説明と対応が最も大切
借主からの家賃減額請求を防ぐ一番の方法は、丁寧な説明と対応を尽くすことです。
迅速に対応することはもちろんですが、施工内容によっては、どうしても数日の間待ってもらわなければならないこともあります。
例えば、夏場にエアコンが故障した場合については、エアコン業者がすでにパンク状態のため、1週間程度待たされることも十分考えられます。
そのような場合は、どういった事情で待たなければならないのか、丁寧に説明することで借主の理解を得て「大家さんはきちんと対応してくれているんだな」と感じてもらうことが、家賃減額請求の抑止力となるのです。
家賃減額請求をする借主の多くは、大家さんに対して不満を感じるからこそ要求をしてきます。ですから、そもそも不満を感じないよう、丁寧に状況を説明して納得してもらうことで、予防することができます。
家賃減額請求の過去の判例の傾向について
家賃減額請求について、実際に裁判に訴えるところまでいった事例はそこまで多くありません。ここでは、過去の判例を、家賃減額請求が認められた場合と、否定された場合に分けてご紹介したいと思います。
家賃減額請求が認められたケース
以下のように、通常通りの日常生活を送ることが困難になる恐れがある設備不良については、家賃減額請求が認められる傾向にあるようです。
- 雨漏り(大阪地裁判決、名古屋地裁判決)
- 漏水やカビ(東京地裁判決)
- 排水管の閉塞(東京地裁判決)
- 窓の破損(東京地裁判決)
- 換気扇の不具合や便器の故障による 汚水の漏れ(東京地裁判決)
家賃減額請求が否定されたケース
一方で、上記に比べると比較的軽微な不具合については、ある程度生活に支障があったとしても、家賃減額請求が否定される可能性があるようです。
- エアコンの不具合(東京地裁判決)
- 備品の軽微な不具合(東京地裁判決)
- 照明器具や換気扇の故障(東京地裁判決)
借主から家賃減額請求をされた場合は、これらの判例も参考にして、応じるかどうかを検討するとよいでしょう。
管理会社に委託することのメリット
賃貸物件の管理を管理会社に委託した場合、家賃減額請求においてはどのようなメリットがあるのでしょうか。
ノーと言いやすくなる環境
賃貸物件を自主管理している場合、原則として故障クレーム対応の窓口は貸主自身となります。そのため、家賃減額請求をされた場合についても、交渉については借主と直接する必要があるのです。
借主とは今後も良好な関係でやっていきたいと思う貸主がほとんどでしょう。
そうなると、借主から家賃減額請求をされると、迷惑をかけている手前、なかなかはっきりと断れないというケースもあるようです。
一方で、管理会社に管理を委託している場合は、窓口が管理会社になるため、原則として貸主と借主が直接会話をする必要がありません。
万が一、家賃減額請求をされたとしても、管理会社経由ではっきりと断ることができるため、自分自身が嫌な思いをすることなく、毅然とした対応をとることができるのです。
修繕の対応が早い
管理会社はプロなので、故障修理の対応が非常にスムーズです。
トラブルの内容ごとに、専門の対応業者と提携していることが多いため、業者を探す手間もなく、すぐに手配することができます。
また、個人で業者に依頼する場合は、単発での依頼になるため単価が上がり割高になることもありますが、管理会社であれば個人で依頼するよりも単価が安くなることもあるため、場合によっては修理や交換費用をおえることもできるでしょう。
2020年の民法改正で、家賃減額対応は義務化へ?
さて、ここまでは現在の民法における原則をベースに解説してきましたが、このほど民法を一部改正する法案が2017年に成立し、2020年4月1日から施行される予定になっています。
実は、民法改正によって、家賃減額請求についても大きな影響を受ける可能性があるのです。
新旧民法を比較してみよう
今現在の民法において、家賃減額請求の根拠となっている条文は次の通りです。
第 611 条 賃借物の一部が賃借人の過失によらないで滅失したときは、賃借人は、その滅失した部分の割合に応じて、賃料の減額を請求することができる。
上記の通り、「賃料の減額を請求することができる」と規定されています。
対して、改正民法の条文は次の通りです。
第 611 条 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由 によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。
このように、改正民法では、請求ができるではなく、減額されると規定されました。
従来のように家賃減額請求が認められるような状況が発生した場合については、家賃減額が当然にできるという認識になってくるため、貸主側としてはよりリスクが高まることになると考えられます。
一方的に家賃減額請求が認められるわけではない
改正民法によれば、家賃減額請求が認められる可能性が高まると予想されますが、減額される金額などについては明確な基準がないため、基本的にはこれまで通り、双方の話し合いによって決めることが望ましいと考えられます。
そのため、今のうちから賃貸借契約書の約款に「貸主及び借主は、減額の程度、期間その他必要な事項について協議するものとする」といった条文を盛り込んでおくとよいでしょう。
おわりに
全3回にわたって設備故障による家賃減額請求について解説してきました。
賃貸経営をしていると、設備故障は必ず遭遇するため、家賃減額請求についても、どの貸主にも起こり得るリスクです。
家賃減額請求におけるポイントをまとめると、以下の通りです。
設備不良が発覚して、すぐに改善できるかどうかわからない場合は、上記3つを念頭において対応することが、家賃減額請求に対する一番のリスクヘッジとなるでしょう。
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- 第1回:避けられない設備故障…家賃を下げろと言われたら?
- 第2回:設備故障による家賃減額の考え方と計算方法について
第3回:家賃減額請求の防止法と民法改正がもたらす影響