不動産鑑定士が注目!不動産関連3大ニュース
私が最近、注目している不動産に関するトピックを3つ取り上げたいと思います。
この3つの共通点は、どれも新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けているということです。
一つ目は、首都圏において、企業の転入が減って、転出が増えてきているというニュースです。
二つ目は、直近の首都圏のオフィスの空室率と賃料に関する調査結果のご紹介です。
そして、三つ目は、最近よく耳にしますが、木材の価格が急上昇しているという事象についてです。一部ではウッドショックとも言われ騒がれている話題について触れてみたいと思います。
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1.首都圏の企業転入・転出動向
まず、注目したのは、帝国データバンクが自社のデータベースを基に企業の本社移転動向を調査した結果です。
この調査によると首都圏では、企業の転入超過が過去10年で最少だったということです。
転入超過社数とは転入社数から転出社数を引いた数で、プラスであれば転入超過ということになります。
昨年2020年に首都圏に転入した企業は296社で、3年ぶりに前年を下回りました。
この場合の首都圏とは東京・神奈川・千葉・埼玉の一都3県をさします。
反対に、首都圏から転出した企業は288社で2年ぶりに増加しました。
これは、東日本大震災が発生した2011年以降で最多だった2012年の287社を上回って、過去10年で最多を更新しているということでした。
結果として、転入超過社数はわずかにプラスを維持したものの、その数は8社にとどまっています。
これは、統計を開始した1990年以降で最も少ないということで、企業の首都圏への流入の動きが急激に弱まっているといえます。
東京から転出していった先は40道府県に上り、最も多かったのが36社の大阪府、ついで静岡県の30社、茨城県の29社、愛知県の16社、福岡県の14社でした。
都市圏や地理的に近接しているところに限定されているようです。
これまでも政府や自治体による移転の優遇税制や補助金のような支援策に加え、オフィス賃料の抑制や災害時のバックアップ拠点などの理由から、企業が本社を首都圏外へ移転させる動きがありましたが、首都圏に集中する取引先との関係構築など首都圏に本社を構えるメリットは大きいため、移転はなかなか進まず転入超過状態が長らく続いていました。
「首都圏・本社移転動向調査(2020年)」株式会社帝国データバンク
この流れが2020年は新型コロナウイルスの感染拡大、緊急事態宣言の発出などによって変わりました。
これまで普及が進まなかった在宅勤務、Web会議システムの導入が全国で一斉に浸透し、当たり前のようになりました。
実際に人材派遣大手のパソナグループが東京から兵庫県の淡路島へ、紅茶卸大手のルピシアが東京から北海道のニセコ町へと移転した事例があり、本社機能を移転・分散する動きが見られました。
これらの動きはコロナ禍の影響を受けた「一過性」の現象となる可能性もありますが、企業が首都圏に拠点を置く意味が問われ、首都圏集中というトレンドからの転換点となるといえるでしょう。
直近でも三度目の緊急事態宣言が出され、2021年にはいよいよ転出超過に転じる可能性も指摘されています。
2.東京のオフィスマーケット
2つめのニュースも企業のオフィスに関することです。
このほど、ザイマックス不動産総合研究所が2021年の第1四半期のオフィスマーケットレポートを公表しました。
この中で東京23区、都心5区、周辺18区の空室率(エリア別)というデータがあります。
都心5区というのは中央区、千代田区、港区、渋谷区、新宿区のことをさします。
今期の空室率は23区で、前期から0.43ポイント増加して2.30%、都心5区で、0.5ポイント増加して2.24%、周辺18区で、0.2ポイント増加して2.46%でした。
23区、都心5区、周辺18区のすべてのエリアで 4四半期連続して空室率は上昇しています。
空室率が上昇した要因の一つに、テレワーク制度を導入したことでオフィス床の見直しを行った企業が増えたことが考えられるとしています。
もともと都心5区は周辺18区の空室率と比べて低い水準でしたが、空室率の差は縮まってきていて、コロナ前と比べてエリアによる空室率に違いがみられなくなってきているのがわかります。
次に賃料ですが、このレポートの中に、新規賃料の水準を示す新規成約賃料インデックスというものがあります。
新規賃料というのは新たにテナントが契約をするときの賃料のことです。
今期は、その指数が90と前期比2ポイント減少、前年同期比では10ポイントも減少となっています。
2012年第2四半期以降継続してきた新規賃料の上昇傾向は、2020年第2四半期をピーク に下落が続いている状況です。
空室率が上昇しているなかで、オフィスを縮小する企業も増えていて、借主側からの値下げ交渉のほか、貸主側から募集の段階で賃料を引き下げて提示するケースも出てきていて、下落につながったとみられています。
新型コロナの感染拡大を契機とした都心部のオフィス市況の変化は、肌感覚では実感していましたが、実際のデータにおいても、じわりじわりとあらわれてきています。
「オフィスマーケットレポート 東京 2021Q1」株式会社ザイマックス不動産総合研究所
3.木材価格の上昇
最後は少し変わって、木材価格が急上昇しているという話題です。
新聞などではウッドショックという言葉も出てきています。
ウッドショックというのは、世界的な木材需要の急増により、輸入材が供給不足になっていて、結果的に国産材を含む建築用材全体の供給が不安定になり、その影響で価格が高騰している状態をいいます。
朝日新聞の記事によると、米シカゴ市場の木材先物価格が、新型コロナウイルスの感染が世界に拡大した昨春には300ドルを割った時期もありましたが、その後、木材不足を背景に上昇傾向が続き、この1年で価格が4倍超にまで高騰したと報じています。
朝日新聞DIGITAL(2020年5月16日記事)
「ウッドショック」で木材価格が1年で4倍 供給懸念も(朝日新聞デジタル) – Yahoo!ニュース
そもそも林野庁の令和元年の木材需給表によると、木材の自給率は、令和元年は製材用材に関しては51%となっています。
パルプ・チップ、合板、その他用材を含む全体では自給率は約33%にとどまっています。
木材の多くを輸入に頼っているのが現状です。
輸入材が高騰して、代替される国産材にも影響が出て、全体的に価格が上がっているのです。
木材価格が高騰している主な理由は、新型コロナによるロックダウンの後、北米で戸建て住宅の着工数が増加していることがあげられます。
コロナの影響で郊外の住宅が人気で、しかも現状の低金利で住宅ローンが組みやすいことが要因といえます。
それに加え、いち早くコロナ禍から抜けつつある中国でも木材の需要が急激に高まっています。
さらに、昨年の年初からのコロナ禍の混乱により、世界的に海上輸送のコンテナが不足したり、貨物船の減便等によって、海上物流が混乱したりしていることも響いています。
一般的な木造住宅の工事費の内訳を見ると全体工事コストに占める木材費は10〜20%程度です。その木材費の2~3割が上昇しているといわれています。
また、木材以外の資材も需要増により全体的に上がっていますので、住宅価格は当面上昇するのは、確実な状況です。
農林水産省の令和3年4月の「木材流通統計調査の木材価格価格」によると、上昇はすでにあらわれていて、素材価格、木材製品価格ともに前年同期に比べ大幅に上昇していて、特に製品価格については大幅に上がっています。
グラフでもわかる通り、木材価格が上がっているのは明らかです。
このような状況が続けば、素材の調達が困難となり、プレカット木材の業者からの納入の遅れに伴って、工期が延びるという状況も増えてくるものと思われます。
まとめ
今回は新型コロナの影響を受けた3つのトピックスをご紹介しました。
企業の首都圏からの転出の動き、オフィスの空室率及び賃料の動向、木材価格の動向には注意を配る必要がありそうです。
木材価格をはじめとした資材価格の動向については、今後、住宅や収益物件の建築をする予定がある方は、予算や工期にも響いてきますので、特に気をつけなければならないニュースかと思います。
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