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家賃滞納者が摘発!民事執行法改正で「逃げ得」防ぐ

行政書士棚田 健大郎
家賃滞納者が摘発!民事執行法改正で「逃げ得」防ぐ

昨年民法の大改正が話題になりましたが、実はその陰で不動産業界にも大きな影響を与えるかもしれない法改正が行われていたことをご存じでしょうか。
2020年4月から民事執行法が改正され、財産の差押えがしやすくなったのです。

そんな中、2021年3月5日ついに改正後初となる家賃滞納者の摘発が行われました。

そこで今回は、改正民事執行法の概要と今後の不動産投資や賃貸経営に与える影響について解説します。

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民事執行法改正で初の家賃滞納者摘発

この度、家賃滞納で保証会社から財産開示手続きの申し立てをされ裁判所に呼び出されていた賃借人の男性が、期日に出頭しなかったことで警視庁に書類送検されました。

滞納額は16万円とそこまで高額ではないが、民事執行法が改正されたことでより厳しく罰則が科されるようになったのです。
男性は容疑を認め、「出頭するつもりだったが寝過ごした。裁判所の呼び出しを甘く受け止めていた」と話しているそうです。

本件が、民事執行法改正後初の摘発となりました。
摘発に至る理由を知ることで、今後の賃貸経営における家賃滞納防止の可能性が見えてきます。

民事執行法の改正の流れ

改正前の民事執行法では、判決や公正証書などの債務名義があったとしても相手方の財産状況がわからず結局回収ができないというケースがよくありました。

裁判

例えば、家賃の未払いについて賃借人を被告に相手取って大家が原告で訴えるというケースの場合、特別な事情がなければ大家が勝訴することが多いです。
ところが、勝訴して債務名義を得たとしても、賃借人の財産状況がわからないため差押えができず、結局大家が泣き寝入りするパターンがありました。

差押えには財産の特定が必要

裁判に勝てば回収できると思っている方もいるかもしれませんが、実際は相手が素直に応じて支払えばよいのですが、応じない場合は財産を差し押さえて強制的に回収することになります。

この場合債権者である大家は、執行の対象になる相手の財産(銀行口座など)を特定して差し押さえを申し立てなければなりません。

ただ、現実的には財産を特定することは困難であることが多いため、2003年に民事執行法が改正されて、一定の要件を満たす場合に、裁判所が債務者に対して財産の開示を命ずることができるようになりました。

この手続のことを「財産開示手続き」といいます。

改正民事執行法のポイント1:申し立てできる範囲の拡大

2020年4月施行の改正民事執行法では、これまで確定判決等を有する者に限定していた財産開示手続きの申立権者の範囲を拡大しました。

具体的には、金銭債権について強制執行の申し立てをするのに必要とされる債務名義なら、いずれの種類でも申し立てが可能になりました。
例えば、公正証書でも財産開示請求が可能になったのです。

改正民事執行法のポイント2:罰則の強化

今回の改正で注目を集めたのが、従わなかった場合の罰則の強化です。

財産開示手続きに対して開示義務者が正当な理由なく呼び出しなどに応じなかった場合や、財産開示期日に宣誓、陳述の拒否や虚偽の陳述をした場合、改正前までは30万円の過料という罰則でした。

あくまで行政上の義務違反に対する少額のペナルティだったので、従わない人が結構いたようです。

罰則強化

改正民事執行法ではこの罰則をさらに強化し、6ヵ月以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられることになりました。
要するに、刑事罰が科せられるようになったのです。

これにより、冒頭で解説した通り賃借人の男性は財産開示手続きに応じなかったことから警視庁に摘発を受けました。

今後の家賃滞納防止への期待はもてるのか

家賃滞納が発生した際のスキームとして、まず裁判外での督促等を行って支払われなければ裁判を起こす流れですが、勝訴したとしても事実上の回収が困難なケースもあります。

そのため、滞納賃料の回収というよりも建物明け渡し請求によって強制退去させて終わらせるというケースもありますが、今後は強い罰則規定の効果で滞納者の財産状況を調べることができるので、滞納家賃を回収できる可能性は上がるかもしれません。

ただ、そもそも滞納する人に財産があるのかというと可能性は低いので、あくまで滞納者に真摯な対応を間接強制する効力のほうに期待したいところです。

まとめ

改正民事執行法によって家賃滞納者が摘発されたことは、今後の不動産業界に衝撃を与えたことは間違いありません。
改正されたことで、資産があるにも関わらず逃げ得になる事態は少なくとも回避できるようになるでしょう。

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棚田 健大郎

行政書士

棚田 健大郎

行政書士

大手人材派遣会社、不動産関連上場会社でのトップセールスマン・管理職を経て独立。棚田行政書士リーガル法務事務所を設立。現在に至る。

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