不動産投資コラム

不動産鑑定士を活用して節税/建物価格をより高く

不動産鑑定士堀田 直紀
不動産鑑定士を活用して節税/建物価格をより高く

私は不動産鑑定という仕事をしているのですが、実際のところ不動産鑑定士と普段接しているという方は、あまり多くないと思います。
不動産を鑑定する仕事という漠然としたイメージはお持ちかもしれませんが、具体的にはどんなことをしているのかをご存じない方も多いでしょう。

しかし、不動産に関心をお持ちの皆様にとって、不動産の鑑定はあらゆる場面で関わってきます。そして、利用の仕方によっては、皆さんのお役に立てることが結構あるのではないかと思っています。
そこで、今回は、不動産鑑定士について簡単に説明したあと、どんな場面で使っていただいたら、皆さんのメリットになるのかということをご紹介したいと思います。

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不動産鑑定士の仕事とは

どうして不動産の鑑定評価というものが必要なのでしょうか。
それは、不動産というものは、画一的な工業製品のように定価がないからです。
土地であれば所在や形状、建物であれば素材、劣化の状態、利用状況などがまったく同じものは存在しません。

また、実際の取引では、当事者の不動産に対する知識や力関係、立場によってさまざまで、双方の主張が異なっているとき、第三者の観点から適正な価格または賃料を評価する人が必要になってきます。
このようなときに、中立・公平で国家資格を有する不動産鑑定士の出番となるのです。

仕事の内容としてわかりやすいのは、毎年新聞などで発表される地価公示(国土交通省・1月1日時点の地価)や地価調査(都道府県・7月1日時点の地価)の基礎をつくっている人たち、というのがイメージがしやすいかと思います。

このような公的な評価のほかにも、さまざまなニーズにも対応しています。内容をご覧いただくと皆さんにとって、意外に身近な存在なのがお分かりだと思います。

● 不動産を売買する際に、中立的な専門家による評価額を把握したい
遺産分割、財産分与の際に、財産の適正な不動産価値を把握したい
相続・贈与税の課税標準額を求める際に、節税の可能性を検討したい
● 金融機関が不動産を担保として融資をする際の参考としたい
同族法人間、法人と役員間、親族間売買で恣意性が入らない客観的な評価額が必要
現在の地代、家賃が適正かどうか検証したい
● 借地にかかる一時金…譲渡承諾料、条件変更承諾料、更新料の目安を知りたい
● 立退き交渉の際に、立退料の目安を把握したい
● 不動産に関するマーケット調査、不動産の有効利用についての提案が欲しい …など

より具体的に不動産鑑定士の職業や資格の内容についてお知りになりたい方は、下記をご参照ください。

日本不動産鑑定士協会連合会/不動産鑑定士とは

では、次に不動産投資を検討されている方にとって、不動産鑑定士が特に関わってくる場面をご紹介しましょう。

不動産鑑定士が関わる場面…建物価格の割合を多くして減価償却を大きくしたい

不動産投資において、成功のカギはいくつかあると思いますが、その中でも節税対策というのは大きなポイントではないでしょうか。
節税対策において、「減価償却費」をいかに大きくとって、不動産所得を圧縮できるかが重要になってきます。

「減価償却」とは

減価償却とは、建物などの固定資産を取得する際に支出した費用を、一定の期間にわたって費用配分する会計手続きのことです。
建物などの固定資産は耐用年数を通じて継続的に使用され、その間の収益獲得に貢献するものですから、その取得費用も使用期間中の各年度に費用として配分する必要があるという考えです。

そして、減価償却は、時間とともに価値が無くなっていくものを対象としています。
同じ固定資産でも、建物は年々老朽化し価値が落ちていきますが、土地は使用し続けることでは価値は減少しません。

したがって、投資物件として、土地・建物を一括で購入した場合、減価償却費として計上できるのは建物だけですので、それぞれ価格を分けて考えなければなりません。

投資家として、なぜ減価償却費が大事なのかというと、減価償却費を計上する期において、実際にはキャッシュアウトしていないのに経費として計上でき、不動産所得を圧縮することができるからです。
つまり、その分キャッシュが手元に残るということです。
不動産を所有するということは、管理にかかるコストや修繕、入居者の退去に伴う原状回復費用など何かとお金がかかるものです。
その資金を確保しておける、もしくは次の物件に投資する際の資金にすることができるというのはメリットになります。

土地と建物の価格はどう配分する?

上記の理由から、建物の価格が高くなれば、各期に計上できる減価償却費も多くなることが分かりました。

それでは、土地と建物を一括で購入するときに、その配分はどのように決定されるのでしょうか。
売買契約書に土地、建物の金額が記載されていれば、明らかに不自然でなければ契約書通り内訳を用いて問題ありませんが、記載されていない場合は、配分する必要があります。
税務的には合理的に配分しなければならないとされていますが、絶対的なものはありませんので、ここでは一般的な方法を挙げておきます。
 

固定資産税評価額の割合で按分する方法

固定資産税の課税明細書などに記載されている土地・建物の評価額の割合を基にするものです。ここで注意したいのは、課税標準額という欄ではなく、評価額という欄の額を用いるようにしてください。

土地の相続税路線価を用いる方法

相続税路線価はおおむね時価の80%と定義されていることから、まず、簡便的に路線価から時価を割り戻して、その単価に土地の面積を掛けて土地価格を出します。そのうえで、購入総額から土地価格を引いて、建物価格を導くという方法です。

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不動産鑑定士に依頼して、土地建物価格を算出してもらう方法

上の方法は簡便的な方法であることから、より説得力を持たせる客観的なものとして、不動産鑑定士に土地建物の内訳を計算してもらう方法があります。
まず、建物の再調達原価(仮にもう一度建築するといくらになるか)を求め、経年などによる劣化に伴う減価分を引いて、建物の価格を求めます。そのうえで、購入総額から建物価格を引いて、土地と建物の価格に分けるという方法です。

手元にキャッシュを残しておくために…不動産鑑定士の意見書

建物価格を高くすることができれば、一度に償却できる額が多くなります。
一般に不動産投資における減価償却は、そのときに課税されるべき税金を、物件売却時まで先送りしている(課税の繰り延べ)ともいわれます。
しかし、あらかじめ手元にキャッシュを残しておけるということで、無利息で融資を受けているのと同様の効果が得られるので、そのメリットは大きいと思います。

また、売主側からみると、建物価格が大きいということは、課税業者の場合、支払う消費税額が大きくなるので反対の主張になります。この場合、不動産鑑定士の意見書を、その交渉材料に使っていただくことにより、買主に有利な土地建物割合にもっていくことができる可能性があります。

この方法を用いるには不動産鑑定士に意見書を依頼することになりますので、費用が掛かることになりますが、場合によっては節税額がそれを上回る場合もあります。
税理士の方と十分に相談していただき、メリットがあるようであれば一度検討してみていただくのも有用だと思います。

今回は土地建物の内訳価格のお話でしたが、ほかにも身近な問題で、不動産鑑定士を上手に活用できる方法もありますので、次回の記事でご紹介したいと思います。

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堀田 直紀

不動産鑑定士・宅地建物取引士

堀田 直紀

不動産鑑定士・宅地建物取引士

不動産鑑定士試験合格後、民間最大手の大和不動産鑑定株式会社にて約11年間、収益物件をはじめとした鑑定評価業務に従事。平成29年10月、ミッドポイント不動産鑑定株式会社を設立。

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