賃貸住宅業の新法案概要と不動産投資家に与える影響
2020年3月に開かれた第201回国会に提出された法律案のなかに、不動産投資や賃貸住宅業に関連する法案が複数あることが、国土交通省の公表で明らかになりました。
そこで今回は、提出された法律案の概要と不動産投資家に与える具体的な影響について解説したいと思います。
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「土地基本法等の一部を改正する法律案」が閣議決定
日本の総人口が減少するなか、持ち主がはっきりわからない「所有者不明土地」や、適切な管理がされていない「管理不全の土地」の増加が社会問題となっています。
こうした土地は、周辺環境に悪影響を与えるのはもちろんのこと、国土の有効利用を著しく妨げることが非常に問題となっていました。
また、地籍調査をする際にも、所有者不明の部分があることで調査が進まないという影響も出ています。
土地基本法等の一部を改正する法律案は、こういった状況を改善することを目的として提出されました。
主な施策や方向性としては以下の通りです。
- 土地の適正な管理および土地所有者等の管理の明確化
- 所有者不明の土地の発生抑制、解消、予防
- 登記情報の最新化
- 所有者不明土地の公告による調査
- 官民境界先行調査等の制度化
例えば所有者不明の土地の発生を予防するための具体策として、以下のようなものがあります。
- 相続登記の義務化など相続人が土地を相続した際の登記漏れを防止する施策
- これまで不可能だった土地所有権の放棄について一定の要件の下で可能にする
- 一定期間経過しても遺産分割がされない場合に合理的に分割する制度
不動産投資に与える影響
これまで所有者不明の土地は、たとえ利用価値が高い場所だとしても購入して再開発することが不可能でした。
法案が成立すれば、所有者不明で手出しができなかった土地を事業者が購入して開発し、それが不動産市場に売りに出てくる可能性が考えられます。
不動産投資家個人の目線で見ると、不動産業者が積極的に参入してこない地方の古い戸建て物件を安く購入できる機会が出てくる可能性も考えられるため、中古戸建投資が得意な不動産投資家の方にとっては追い風となるかもしれません。
「都市再生特別措置法等の一部を改正する法律案」が閣議決定
日本の総人口が減少することによるもう1つのデメリット、それは土地所有者の開発意欲が下がってしまうということです。
特に大規模な土地ではなく、都市部の内部に存在する小さな空き地や空き家など、ほとんど利用されていない、またはまったく利用されていない小さな土地が増えています。
このような現象のことを「都市のスポンジ化」といい、土地の有効利用を阻害しているのです。
都市再生特別措置法等の一部を改正する法律案では、こうした状況を打開すべく次のような施策が盛り込まれています。
- 行政から能動的に動くことで、所有と利用が分離しているスポンジ化した土地を集約して利用価値を高める
- 官民連携で話し合って公共空間など都市機能を作っていく仕組み作り
具体的にいうと、所有権にこだわらずに複数の小さな土地に一括して利用権等を設定する制度の創設など、これまでになかった新しい制度が盛り込まれています。
不動産投資に与える影響
スポンジ化した地域の土地が有効利用されることで、これまで利便性の乏しかった地域に新たなインフラや商業施設などができる可能性が出てきます。
よって、スポンジ化している近隣地域に投資物件を保有している場合は、今後再開発が促進して地価や家賃の上昇といった恩恵が受けられるかもしれません。
「マンションの管理の適正化の推進に関する法律及びマンションの建替え等の円滑化に関する法律の一部を改正する法律案」を閣議決定
南海トラフ巨大地震や首都直下型地震など、地震に対するリスク管理が求められるなか、旧耐震基準のまま耐震補強工事がされず放置されているマンションが問題となっています。
現行法では耐震性の不足が除去の必要性に係る認定対象になっていましたが、新法案ではマンションの痛みが著しく、外壁の剥落が発生する事例が増えていることを考慮して、次の2点を追加するとしています。
1.外壁の剥落等により危害を生ずる恐れがあるマンション等
対象となるマンションは、4/5以上の同意を得ることで、マンションの敷地を売却できるようになります。
また、建替時の容積率特例(特定行政庁の許可によって容積率制限を緩和するという特例)を受けることが可能です。
2.バリアフリー性能が確保されていないマンション等
建替時の容積率特例が受けられます。
団地における敷地分割制度
これまでマンションの集合体である団地については、敷地共有者の人数が多いことから足並みが揃わず売却や建て替えが円滑に進まないという問題が発生していました。
そこで、新法案では上記1によって要除去認定を受けたマンションを含む団地については、敷地共有者の4/5以上の同意によってマンションの敷地を分割できる「敷地分割制度」を創設するとしています。
敷地を買い受けた業者が、再びその敷地に耐震基準を満たしたマンションを建築し、区分所有者はそこに再入居するか住み替えするかを選択できるようになります。
これにより、従来の建て替えよりも合意形成しやすくなるため、要除去認定を受けた団地の円滑な再生が進むことが期待できるでしょう。
不動産投資に与える影響
旧耐震基準の区分マンションを投資用で保有している場合は、今後、改修・建て替え・売却という3つの選択肢が出てくることになります。
十分な修繕積立金が積み立てられていないマンションは、売却という逃げ道ができるものの投資家にとってどの程度のメリットがあるのかは未知数な部分があります。
よって、所有しているマンションが限界マンションになる可能性が考えられる場合は、早い段階で見切りをつけて売却するという選択も必要になるでしょう。
「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律案」を閣議決定
不動産の売買や賃貸の仲介業者は、宅地建物取引業法に従って業者登録して営業をしています。
ところが、意外と知られていませんが不動産の賃貸管理会社については、法的義務のある登録制度というものはなく、任意である賃貸住宅管理業者登録制度が2011年から運用が開始しただけでした。
そんななか、最近はシェアハウス投資問題や、サブリース契約(家賃保証)のトラブル件数が増えており、賃貸住宅管理業者の業務の適正化を図る必要性が高まってきました。
また、住宅宿泊事業法の施行にともない民泊の管理についても一定の品質や適正性が求められるようになっています。
賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律案では、これら賃貸住宅管理事業者の登録制度および不当な勧誘行為の禁止、賃貸借契約締結前の重要事項説明などが盛り込まれています。
なお、当該法律案は2020年3月6日に閣議決定しました。
不動産投資への影響
賃貸住宅管理業者の登録制度が法制化されれば、これまで頻繁に発生していたサブリース契約の一方的な賃料値下げなどのトラブルが減ることが期待できます。
現状では賃貸管理会社を直接規制する法律はないため、トラブルが発生しても宅建業者ではない場合是正指導が難しい状況にありましたが、今後登録制度の法制化が実現すれば、免許権者の権限で一定の処分も可能になるでしょう。
まとめ
今回提出される新法案は、どれも不動産投資家にとってプラスとなりそうな側面が多いと考えられます。
ご自身の投資物件に関係が深い新法案の動向は、今後も必ずチェックしておいた方がよいでしょう。
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