不動産投資コラム

賃貸経営で法人化するメリット②法人特有の節税

2020/02/20
税理士・司法書士渡邊 浩滋
賃貸経営で法人化するメリット②法人特有の節税

法人化のメリットとして必ずと言っていいほど質問されるのは、「法人にすると、経費が多く使えるのですよね?」ということ。
本当に多く経費が使えるのでしょうか。
そして、本当にその節税策は有効なのでしょうか。

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法人と個人の経費の違い

個人事業の場合、経費として計上できるのは事業活動で支出した部分だけです。

プライベート活動での支出は家事費(生活費)となり、経費にはできません。
プライベートと事業が混在している支出(家事関連費)については、「業務に必要という部分が明らか」にされていないと、経費にはできないと規定されています。

つまり、個人事業の場合、経費については、プライベートな支出でないもの、かつ、プライベートな部分が混在しているのであれば、事業に必要であったことが明確にされたものでないと、経費に計上しても税務署から否認される可能性があるのです。

一方、法人の場合には、家事関連費という規定はありません法人は事業のためだけに活動するからです。
ですから、基本的には支出した分は、すべて経費になります
ただし、役員の個人的な経費を法人が負担した場合には、役員賞与と認定される場合があります。

つまり、法人の経費の方が、(事業に必要かどうかの明確化が厳密に求められない分)経費として認められやすいと言えます。

法人特有の節税とは

さらに、法人でしか認められない経費というものもあります。
どんなものがあるのでしょうか。

1.社宅家賃

自宅を賃貸している場合、会社契約に変更して社宅とすれば、家賃を法人の損金にできます。ただし、一定の家賃を会社に支払う必要はあります。

2.出張日当

会社で旅費規程等を作成すれば、社長であっても出張に出かけた際の日当を支払うことができ、法人の損金にできます日当を受け取った個人は非課税です。

3.退職金

会社で退職金規程等を作成すれば、社長に退職金を支払えます退職金は会社の損金になり、受け取った個人は退職所得となります。退職所得は勤続年数によって計算される退職所得控除額によって多額を控除でき、控除後の所得を1/2にできます。
ただし、平成24年度税制改正により、勤続年数が5年以下の役員等は退職金を受け取った際、1/2にすることはできなくなりました。

4.生命保険の加入

個人の場合、生命保険料控除で最大4万円の控除のみですが、会社で保険をかけた場合は、保険の種類等によって保険料は全額損金になります。

5.経営セーフティー共済の加入

経営セーフティネット
経営セーフティー共済は、個人の不動産所得しかない場合は加入しても経費計上できませんが、法人であれば経費に計上することが可能です。

セーフティー共済とは、取引先が倒産し、売掛金が回収困難になった場合に、貸付けが受けられる共済制度です。
貸付けは、掛金総額の10倍まで(最高8,000万円)の範囲内で、無担保、無保証人、無利子です。
一定の規模(中小企業)で、引き続き1年以上事業を行っている個人又は法人のみ加入できます。

個人で賃貸経営を行っている場合には、加入はできますが、掛金を必要経費に計上することはできません
掛金を必要経費に計上することができるのは、個人の場合には事業所得者のみに限られ、不動産所得者は、必要経費が認められていません
したがって、賃貸オーナーは、原則として、法人形態で経営している場合にのみ掛金を経費(損金)にすることができます

加入のメリット

掛金として支払った全額が必要経費(損金)になります。
掛け金は、月額最大20万円までです。
ただし、掛金総額800万円までが積立限度額で、それ以上の金額は掛けられません。

解約した場合に、掛金月数に応じて解約手当金が受け取れます
12ヶ月以上24ヶ月未満では、支給率80%
(12ヶ月未満はなし)
24ヶ月目から6ヶ月単位で支給率が段階的に増加し、40ヶ月以上で100%

なお、解約手当金は、全額収入になりますのでご注意ください。

法人化での経費による節税の注意点

法人の方が個人よりも経費として認められやすく、使える経費が増えます。
しかし、経費ばかり使っていては、お金がなくなります。
お金がなくなってしまっては、法人を設立した本来の目的とは違うのではないでしょうか。

しかも、この経費による節税効果は決して大きなものとは言えません

まずは、「低い税率」と「所得分散」等のしくみによる法人化の節税効果があると判断した後に、これらの節税策を検討した方がよいでしょう。

最初からこの節税策がありきで法人化するかしないかの判断にしてしまうと、法人化の目的を見失ってしまいますので、注意してください。

まとめ

  • 個人より法人の方が一般的に経費として認められやすい。
  • 法人でしか認められない経費がある。
  • 法人で経費が多く使えることを理由に法人化を判断してはいけない。

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渡邊 浩滋

税理士・司法書士

渡邊 浩滋

税理士・司法書士

経営難だった実家のアパート経営を大きく改善し、大家さん専門の税理士事務所を設立。北海道から沖縄まで幅広く相談を受ける。セミナー、出版、連載など多方面で活躍。専門税理士ネットワーク『knees』メンバー。

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