不動産投資コラム

オーナーが認知症に⁉管理を委託できる「信託制度」

2018/05/14
司法書士宮﨑 辰也
オーナーが認知症に⁉管理を委託できる「信託制度」

近年ニュースでもよく耳にする高齢化社会に伴い、長く不動産投資を続けていくうえでも、認知症等のリスクに目を向けなければなりません。

そして、収益不動産のオーナーにそのような状況が起こってしまったときでも、その家族が今までどおり不動産経営を続けていけるよう、信託という制度が注目されています。

信託とは、財産の所有者が、信託行為(遺言・信託契約等)によって、信頼できる人に対して財産を託し、誰かのためにその財産の管理・処分を任せる仕組みを指します。

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信託とは?その仕組み

信託とは?その仕組み

  信託の当事者となるのはこちらです。
  委託者…財産を預ける者
  受託者…財産を預かり、管理・処分する者
  受益者…信託財産から得られる利益を受ける者(信託財産の実質的所有者)

信託は大きく分けて2種類

信託には大きく分けて「商事信託」「民事信託」の2種類があります。
商事信託とは
「商事信託」は受託者が信託報酬を得る目的で業務として行う信託で、信託業法の規制のもと、信託銀行や信託会社が行います。

民事信託とは

「民事信託」は受託者が信託報酬を得ないで行う信託で、信託業法の制限を受けず、受託者は個人でも法人でも誰でもなることができます。

民事信託のなかでも、財産管理を任せる相手として、家族・親族を受託者として財産の管理・処分を任せる仕組みを「家族信託」と呼んでいます。

信託を利用する4つのメリット

メリット1:成年後見制度に代わる柔軟な財産管理を実現できる

信託は柔軟な財産管理ができる

成年後見制度(せいねんこうけんせいど)は、高齢者が認知症等で意思能力が低下した場合に、後見人を選び、高齢者等を保護するための制度です。

MEMO
成年後見制度について

成年後見制度は認知症の方のほか、知的障害、精神障害などの理由で判断能力が不十分な方を保護するための制度です。

成年後見人は本人が不利益を受けないよう、本人に代わり施設や介護など身の回りの契約行為、確定申告など身の回りの諸手続き、そして不動産売買・年金受給・保険金請求・遺産分割協議の参加など、財産管理業務を行うことができます。

参考:法務省:成年後見制度~成年後見登記制度~

しかし、成年後見人が選任されると、本人の財産を処分するには、家庭裁判所の許可が必要になる場合があります。

そのため、原則として「生前贈与などの相続対策」や「積極的な資産運用」ができなくなります

このような場合、意思能力があるうちに、信頼できる人に財産を託し、その管理・処分を任せることで、柔軟な財産管理を実現することができます。

たとえ、本人が認知症を発症してしまい、収益不動産の管理・運用が難しくなったとしても、財産を預かった人が、信託契約に定めたとおり、不動産の修繕・建替え・賃借人の募集や、必要があれば売却をすることもできるようになります。

メリット2:財産分離機能を有する

信託のメリット:財産分離機能を有する

財産を預ける方(委託者)は、自らの財産の一部または全部を信託財産とすることにより、ほかの固有財産とは分別して、目的にしたがって管理をすることが可能となります。

そのため、仮に成年後見制度を利用した場合であっても、成年後見人の権限は信託財産には及ばないため、財産を預かる方(受託者)が信託契約に定めたとおりに処分・管理ができます。

メリット3:遺言では対応できない資産承継を実現できる

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遺言とは、生前に「どの相続人」に「どの財産」を引き継がせるかを決める遺言者の最後の意思表示です。

しかし、遺言は一代かぎりの相続にしか効力を持たず、また、遺産の使用目的を指定することも難しいのが現状です。

そのため、「子供の生活のため、毎月一定額を渡すようにしたい」とか「相続人が遺産を使い切れなかった場合、次の受取人まで決めておきたい」といったニーズに応えることができません。

このような場合、信託を利用することで、「いつ、誰に、どのような目的のために、どのような財産をあげるのか」を指定することができます。

メリット4:贈与税・不動産取得税を節約できる

信託のメリット:贈与税・不動産取得税を節約できる

所有されている不動産について、信託を利用した場合、財産を預かった方(受託者)の名義に変更する登記申請を行います。

それと同時に、対象不動産が、信託契約のなかに組み込まれていることを公示する信託登記手続きも行います。

このとき、登記簿上は、財産を預かった方(受託者)の名義に変更されていますが、権利の形式的な移転に過ぎず、実質的な所有者は変わらないため、贈与税と不動産取得税がかかりません

信託の活用法

信託の活用法

では、実際に信託をどのように利用すればいいのでしょうか。

ここでは、投資用不動産を所有するある男性に最近物忘れが出始めてきており、その長男が今後の入居者の募集や管理等、不動産事業の運営を心配しているというケースを想定してみます。

この場合、所有者である父親を委託者(財産を預ける方)、長男を受託者(財産を預かる方)とし、この親子間で信託契約を結びます。

そうすることで、父親がまだ元気なうちは長男と一緒に不動産を管理してゆき、後に父親が認知症を発症し、判断能力を失う状況になってしまった場合には、受託者である長男が契約で定めたとおりに、父親に代わって下記のような管理業務等を行うことができるのです。

  • 賃貸人の募集
  • 賃貸借契約の締結
  • 物件の大規模修繕
  • 建替え
  • 売却

そして、委託者である父親が亡くなり相続が発生した場合でも、信託契約書のなかで信託財産とした不動産の承継先をあらかじめ定めておけば、遺言書を別途作成したり、相続人の間で遺産分割協議を行う必要はなく、自分の意思どおりの相続が可能になります。

信託を利用する際の注意点

信託を利用すれば、遺言書では叶えられないことや成年後見制度ではできないことにも柔軟に対応し、より多くの要望に応えることができます。

しかし、決して信託制度も万能ではなく、遺言書の作成や成年後見制度を利用して目的を達成できるときにはそちらを活用し、信託が必要な場合に、信託制度の本来の目的を見失わずに利用することが必要です。

不動産投資は、立地で決まる。人口動向や賃貸需要に合わせた「新築一棟投資法」とは

宮﨑 辰也

司法書士

宮﨑 辰也

司法書士

平成28年、フロンティア司法書士事務所を開設。不動産に関する登記から家族信託、相続手続き、会社登記に至るまで幅広い分野に迅速丁寧に対応。

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