令和3年 地価公示の結果を不動産鑑定士が解説
今回は、先日発表されました令和3年の地価公示についてお話したいと思います。
まず、地価公示ですが、これは地価公示法に基づき、国土交通省土地鑑定委員会が、一般の土地の取引価格の指標とするため、標準地を選定して、毎年1月1日時点の1㎡当たりの正常な価格を判定し公示するものです。
要するに1年に1回、地域の代表的なポイントの地価を公表するというものです。
今年の地価公示、結論から申し上げると、「非常に変動が激しかった1年だった」といえます。皆さんの予想される通り、今年の地価公示は新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)による影響を多大に受けたということです。
ちなみに前回の地価調査(令和2年7月1日時点の価格)では、新型コロナに起因する地価下落がみられました。
今回の地価公示ではその後、どのような変化があったかということで注目されました。
【1分で分かる!新築一棟投資の魅力とは?】東京圏・駅徒歩10分圏内の物件紹介はこちら
地価公示の結果
まずは全国の地価を見てみましょう。
全用途の平均は平成27年以来6年ぶりに下落に転じて▲0.5%でした。
用途別では、商業地は7年ぶりに下落に転じ▲0.8%、住宅地は5年ぶりに、下落に転じ▲0.4%となりました。
次に三大都市圏 を見てみると全用途平均は東京圏、大阪圏、名古屋圏のいずれも、平成25年以来8年ぶりに下落に転じています。
商業地は東京圏で▲1.0%、大阪圏が最も下落して▲1.8%、名古屋圏で▲1.7%となっています。
住宅地は東京圏が8年ぶりの下落で▲0.5%、大阪圏が7年ぶりの下落で▲0.5%、名古屋圏が9年ぶりの下落で▲1.0%と大きく下がっています。
地方圏では全用途平均と商業地で平成29年以来4年ぶりに、住宅地は平成30年以来3年ぶりに下落に転じています。
全用途と住宅地で▲0.3%、商業地で▲0.5%となっています。
全用途平均・住宅地・商業地のいずれも、地方四市では上昇を継続したが上昇率が縮小し、地方四市を除くその他の地域では全用途平均・住宅地は平成31年以来2年ぶりに、商業地は平成30年以来3年ぶりに下落に転じています。
この地方四市とは札幌市、仙台市、広島市、福岡市のことを指しています。
福岡市は中心部の天神地区や博多駅前地区で再開発が進んでいるなど影響で、商業地が6.6%、住宅地が3.3%とプラスを維持しています。
上昇幅は縮小したものの、全国的に下落する中で、地価は堅調に推移しています。
新型コロナウイルス感染症の影響等により、全体的に弱含みとなっていますが、地価動向の変化の程度は、用途や地域によって異なっています。
昨年からの変化は、用途別では商業地が住宅地より大きく、地域別では三大都市圏が地方圏より大きくなっています。
中でも際立ったのは大阪圏の商業地の変化です。
全国の商業地の下落率第1位は、大阪市中央区の繁華街、道頓堀周辺です。
大阪中央5-19の地点では▲28.0%と大きく下がっています。
昨年は23.8%のプラスでしたから、この下がり方はとてもインパクトがあります。
要因は、新型コロナによるインバウンド需要の激減、外出自粛により、飲食店舗、ホテルが大きな打撃を受けたことが響きました。
下落率上位10位のうち、8地点が大阪市中央区の地点ということで、近年急上昇していた地点が一気に下落しています。
出典:国土交通省HP 「令和3年地価公示の概要」変動率下位順位表(全国)を加工
今回の地価公示のポイント
商業地については店舗やホテルの需要減退、先行き不透明感から需要者が価格に慎重な態度となったことなどを背景に、全体的に需要は弱含みでした。
一方で、三大都市圏の中心部から離れた商業地や地方圏の路線商業地など日常生活に必要な店舗等の需要を対象とする地域では、上昇地点も見られる等、昨年からの変動率の変化は比較的小さいという特徴も見られました。
また、住宅地では、不動産取引の減少、雇用・賃金情勢が弱まって、需要者が価格に慎重な態度となったことなどを背景に挙げられ、全体的に需要は弱含みとなりました。
地方四市をはじめ地方圏の主要都市では、上昇の継続が見られるなど、昨年からの変動率の変化は比較的小さかったといえます。
結果をご覧になられていかがでしょうか。
これだけ新型コロナのマイナス面の報道がされているので、もしかしたら、一部エリアを除いて、皆さんの思われているより、地価は下がっていないと感じられたかもしれません。
たしかに、地価公示では前年の1月1日と比較したものですので、その間の変動は把握しづらい面があります。
そこで、ここでは、1年の地価がどのような動きをしたのかを理解するために、別の指標をご紹介したいと思います。
3ヵ月ごとの地価の動きがわかる「地価LOOKレポート」
国土交通省が公表している「地価LOOKレポート」というものがあります。
この「地価LOOKレポート」の調査目的 は、主要都市の地価動向を先行的に表しやすい高度利用地等の地区について、四半期毎に地価動向を把握することにより先行的な地価動向を明らかにするというものです。
調査時点は、毎年1月1日、4月1日、7月1日、10月1日で、計4回実施されています。
地価公示のように、全国各地にある代表的な地点の個別の地価ではなく、エリアごとの変動率を公表しています。
対象地区は、三大都市圏、地方中心都市等において特に地価動向を把握する必要性の高い地区で、商業地がメインとなっています。
対象地区の代表的地点(地価公示地点を除く)について、不動産鑑定士が不動産鑑定評価に準じた方法によって四半期ごと(前回調査時点から今回調査時点の3ヶ月間)に調査し、変動率を9区分で記載
調査エリア(令和2年第4四半期)
東京圏43地区、大阪圏25地区、名古屋圏9地区、地方中心都市等23地区 計100地区
住宅系地区 - 高層住宅等により高度利用されている地区(32地区)
商業系地区 - 店舗、事務所等が高度に集積している地区(68地区)
年4回も調査されているので、1年の間にどのような地価の動きがあったのか、地価公示よりも詳しく知ることができます。
対象エリアに大規模な開発が行なわれた、あるいは地震や台風といった自然災害が起こった場合などを除くと、1年の間では、上昇、下落というおおまかな傾向に変化が見られないことが一般的です。
しかし、新型コロナの感染拡大の状況に追随するように、この1年の地価はいつもと異なっていました。
参考のために、一昨年(平成31年1月1日~令和元年12月31日)の結果を見てみると、調査エリアでは年間を通じておおむね上昇傾向が続いていました。
国土交通省 主要都市の高度利用地地価動向報告~地価LOOKレポート~
【第49回】 令和元年第4四半期 (令和元年10月1日~令和2年1月1日)の動向
令和2年に入ってからも、第一四半期は、矢印が上向きになっているところが多数でした。
しかしながら、第二四半期においては、一変、矢印が下向きあるいは横ばいという傾向になりました。
国土交通省 主要都市の高度利用地地価動向報告~地価LOOKレポート~
【第53回】 令和2年第4四半期 (令和2年10月1日~令和3年1月1日)の動向
初めて全国で緊急事態宣言が発令されたのが4月ですので、この前後は、先行きが見通せないという状況が需要者に心理的な不安をもたらしました。
特に商業地においては、インバウンドの激減によるホテル稼働率の低下、外出自粛による店舗の売上悪化が著しく、投資家は様子見の状況でした。
一概には言えませんが、第三四半期では少し落ち着き、やや下落もしくは横ばいに、第4四半期では、横ばいもしくは上昇に転じているところもありました。
このように、1年の地価の傾向が上昇、下落が混在する目まぐるしい年となりました。
高度利用地に関しては、地価公示や地価調査といった資料以外にも、このようなデータがあるということを知っておいていただければと思います。
今年の地価公示のまとめ
直近でいえば、新型コロナの第三波が落ち着きつつあります。再度の緊急事態宣言が解除され、徐々にワクチンの接種が始まっています。
また、金融緩和、低金利といった投資環境を背景として、海外投資ファンドなどの投資家は、優良な日本の不動産については積極的に取得しており、売買市場に関しては好調な状況が続いています。
さらに巣篭もり需要により、物流施設を開発する動きが加速しています。
こういった好材料がある一方で、政府はこのほど東京オリンピック・パラリンピックでの、外国人観客を受け入れない方針を固めました。
期待された経済効果が見込めないといった事情は商業地の地価に影響を及ぼしかねません。
さらに、テレワークの普及により、オフィス空室率の上昇や賃料の下落といった賃貸市場では懸念材料もあります。
このようなプラス、マイナス要因の動きがどうなっていくかにより、地価も影響を受けて変動していくと思われます。
今後の地価LOOKや地価調査が注目されるところです。
You Tube動画:「不動産鑑定士が解説!令和3年地価公示」はこちら
手間をかけずに将来に備えた資産をつくる…空室リスクが低い不動産投資とは?