借主からのインボイスの登録要請を拒否することは可能か?
インボイス制度による賃貸人の登録は「任意」であることから、仮に賃借人が「登録」を要請してきても、拒否することは可能ですか?
賃貸の規模も小さいことから消費税の確定申告の手間等を考えると「登録」はしないで済ませたいです。
インボイス登録は任意です。強制されるものではありません。
借主が登録を要請しても拒否することは可能です。
しかし、大家がインボイスの発行ができないと、借主が消費税の仕入税額控除(支払った消費税を預かった消費税から差し引くこと)ができないことになり、国に納税する消費税が増えてしまうことになります。
余分な消費税を払いたくない借主は、退去するか、消費税分の値下げを要求してくる可能性があります。
このリスクがあることを覚悟の上で、インボイス登録をしない(免税事業者を維持する)という選択をすることは問題ありません。
もしくは、インボイス登録しなくてもよい対策を打つことが考えられます。
以下の項目を検討してみましょう。
借り主がインボイスを必要としているか
借り主がインボイスが必要ない場合があります。
仕入税額控除ができないことによって消費税の負担が増えてしまうのは、借主が消費税の課税事業者であり、原則課税になっている場合です。
借主が免税事業者(原則、2年前の課税売上が1,000万円以下など)である場合には、消費税の納税義務がありませんので、インボイスによる影響は受けません。
また、借主が課税事業者であっても簡易課税制度を選択している場合(2年前の課税売上が5,000万円以下などの要件を満たしている場合)にも、インボイスによる影響は受けません。
仕入れに係る消費税を取引ごとに計算しないため、インボイスの保存が必要ないとされているからです。
借り主が、免税事業者や簡易課税制度を利用しているかどうかは、聞いてみないとわかりませんが、予測は立てられるかと思います。
インボイスの影響を受けない人に共通するのは、事業の規模が小さい(個人事業主に多い傾向にある)方です。
借り主が個人であれば、インボイスによる影響はない可能性があります。
経過措置があることで免税事業者を維持することを説明する
インボイス制度が導入しても、急激な変化にならないように経過措置が設けられています。
経過措置の期間中は、免税事業者からの課税仕入れについても仕入税額相当額の一定割合を控除できることになります。
・2023年(令和5年)10月1日~2026年(令和8年)9月30日 ⇒80%控除
・2026年(令和8年)10月1日~2029年(令和11年)9月30日 ⇒50%控除
インボイスが発行できなくても、消費税は一部控除できることを説明します。
当然、一部控除では納得いかない借主が多いと思います。
借主に納得してもらうようにするには仕入税額控除ができない部分に相当する部分(消費税額の20%相当額)を値引きすることで、借主に負担がないように賃料を調整することが考えられます。
2023/10/27
回答者渡邊 浩滋
税理士・司法書士