REITから学ぶ、民泊・ホテルの経営戦略(中編)
前回の記事 では、REITという、金融商品取引所(市場)で取引される不動産投資信託の仕組みと、REIT市場は、不動産投資のリアルタイムの情勢を学ぶ有益なバロメーターであることを解説しました。
REITを運営する「投資法人」は、様々な用途の不動産に投資を行うことができます。
例えばホテルに特化して投資を行う「ジャパン・ホテル・リート・投資法人」や、商業施設に特化して投資を行う「イオンリート投資法人」、ヘルスケア施設に特化して投資を行う「ヘルスケア&メディカル投資法人」など保有するアセットに応じて投資法人ごとに特徴があります。
本記事では、不動産投資の情報の宝庫であるREITから、特にホテルに特化して投資を行う、いわゆる「ホテル特化型REIT」に注目し、掘り下げて分析することで、民泊・ホテルの経営指標について学びましょう。
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REIT市場は不動産投資のバロメーター
民泊やホテルなど宿泊施設を経営する中で、「週末は稼働率が高いが、平日は低いので価格を30%落とそう」とか、「次の連休は昨年より販売価格を上げても予約が入りそうだ」などと、肌感覚的な景況感を感じることはできますが、客観的にリアルタイムの宿泊需要や景況をとらえることは、一般的に容易なことではありません。
そこで、不動産投資の情勢を捉える上で非常に参考になるのがREITの市場動向です。
REITは、株式のように市場で投資持分(投資口)が日々売買されるため、保有不動産の各テナント企業の業績、世界や日本の政治・経済情勢、投資口の需給、税制や規制、天候や自然災害などにより敏感に市場で取引される価格が変化します。
したがって、REITの価格からは、リアルタイムの不動産の市場の評価を、さらに各投資法人の価格から、当該投資法人が保有するアセットクラスの評価を読み取ることができます。
REITの個別銘柄を比較する
下記のチャートは、「東証REIT ETF(2555)」「ジャパン・ホテル・リート投資法人(8985)」「星野リゾート・リート投資法人(3287)」の直近1年の価格の変動を示しています。
東証REIT ETF(2555)
青色の「東証REIT ETF(2555)」は、東証REIT指数を対象指数とし、対象指数に連動する投資成果を目指します。
「東証REIT」指数は、東証市場に上場する不動産投資信託(Real Estate Investment Trust)全銘柄を対象とした浮動株ベースの時価総額加重型の価格指数です。
つまり、オフィス、マンション、物流施設、ホテル、商業施設その他から構成される「REIT全体の価格の値動き」をとらえる指標となります(株式投資で言うところの「日経225」のイメージです)。
「東証REIT ETF(2555)」からは、株や国債と比較して、『不動産投資について市場がどのように考えて(評価して)いるか?』を読み取ることができます。
ジャパン・ホテル・リート投資法人(8985)
赤色の「ジャパン・ホテル・リート投資法人(8985)」は、シンガポール系ファンド会社をメインスポンサーとするホテル特化型REITで、トラックレコードは最長、資産規模も3,100億円超えという日本最大のホテルJ-REITです。
代表的な保有不動産は、ヒルトン東京お台場(624億円)、ホリデイ・イン大阪難波、(270億円)、ヒルトン東京ベイ(261億円)、オリエンタルホテル東京ベイ(199億円)等があります。
いずれも有名なホテルであるため、『あのホテルを持っているのは、REITだったのか!』とイメージがわく読者も多いのではないでしょうか?
星野リゾート・リート投資法人(3287)
緑色の「星野リゾート・リート投資法人(3287)」は、ホテルの開発・運営に加えて再生事業にも強みを持つ「星野リゾート」をスポンサーとするホテル特化型J-REITです。
保有する不動産はANAクラウンプラザホテル広島(178億円)、ハイアットリージェンシー大阪(160億円)、星のや軽井沢(76億円)等があります。
コロナショックによりREITの価格は大きく下落!しかし、その後は…?
さて、上記3つのチャートを時系列に見ると、新型コロナウイルスの感染拡大の認識が世界中に広がり、WHO(世界保健機関)からパンデミック(世界的流行)が表明され、東京オリンピック・パラリンピックの少なくとも1年延期が決定されるなど「コロナショック」とも呼ばれた2020年3月に、すべての銘柄について、価格が大きく下落しています。
(なお、当時価格の下落は、REITに限らず、同時期に日経平均やTOPIXにおいても確認されました。各国の新型コロナ感染対策による経済活動の停滞や先行きの不透明感から、株式市場全体に売却の注文が殺到したためと考えられます。)
しかし、その後、それほど遅くない時期にREIT以上の市場は反発しました。
最も価格変動が小さかった「東証REIT ETF(2555)」は、2019年2月末を基準とすると、一時は-30%以上下落しましたが、わずか1ヵ月後には、-20%の下落にまで回復し、その後はほぼ横ばいのち徐々に回復、2021年2月末時点は、ほぼ2年前の水準に戻りつつあります。
ジャパン・ホテル・リートと星野リゾート・リートのちがい
最も価格変動が大きかったのは「ジャパン・ホテル・リート投資法人(8985)」であり、中国武漢でのコロナウイルスの感染が報道された2020年1月以降、価格が下落し、3月には-70%と、わずか4ヵ月の期間で、通常では考えられないほど暴落しました。
その後、日本では緊急事態宣言が宣言・解除され、政府による観光産業への経済支援策『GOTOトラベル事業』のリリースなどの期待、秋以降の感染の第3波などの影響を受け、行きつ戻りつを繰り返し、現2021年2月末時点において、2年前の-40%の価格で推移しています。
同じホテル特化型REITでも異なる状況を示しているのが、「星野リゾート・リート投資法人(3287)」です。
「星野リゾート・リート投資法人(3287)」も2020年3月のコロナショックの時期に価格が下落していますが、下落の程度は「ジャパン・ホテル・リート投資法人(8985)」ほど大きくありません(とはいえ、2019年2月末を基準として-50%以上の下落)しています。
その後、徐々に価格は回復し、2020年9月には、価格の下げ幅が「東証REIT ETF(2555)」よりも小さくなり、2021年2月末時点は2年前の基準価格まで回復しました。
以上、チャートから読み取ることができるのは、次の3点です。
- コロナショックにより不動産投資全般についてREIT市場の価格が下落したが、現在はコロナ前の水準に向かい回復しつつある。
- コロナショックによるホテル特化型のREIT価格の下落は、REIT市場の全体と比較して大きい。
- 同じホテル特化型REITであっても、各投資法人により市場の評価は異なる。
次回は、ホテル特化型REITである「ジャパン・ホテル・リート投資法人」と「星野リゾート・リート投資法人」のちがいから、更なる株価推移の相違の理由を分析し、将来の民泊・ホテル経営戦略を考察します。
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