物件選びを間違えないために「斜線制限」を知る!
今回は、知っていそうであまり詳しくは知らない、建物に関する法律上の話をしてみたいと思います。
皆さんが街中を歩いているとき、上の方の階だけが、斜めに切り取られたような形になった建物をご覧になられたことがあると思います。下層階の面積に比べ、上層階の面積が小さくなっている建物です。
なぜこのような形になっているかご存知でしょうか。
よく考えてみると建物は1階から屋上まで、垂直に建てられている方が効率的だと思いませんか?
斜めになっていると、垂直に建てられている階に比べ、上層階では利用できる面積が減少してしまったり、建築する場合においても、他の階と異なる設計・施工をしなければならないので手間やコストがかかることがあります。
これには「斜線制限」とよばれる法律上の規制が関わっています。
そこで今回は、この「斜線制限」について説明していきたいと思います。
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斜線制限とは
斜線制限とは建築基準法で定められているもので、「道路斜線制限」「隣地斜線制限」「北側斜線制限」の3つがあります。
それぞれ目的や適用される地域、高さなどが違ってきますのでポイントを絞って解説します。
道路斜線制限
道路斜線制限(建築基準法第56条第1項)は、道路面の日照、通風を確保するため、建物が接する道路の幅や建物の高さなどを定めているものです。
この制限では敷地が接している前面道路の反対側の境界線を起点として、適用される範囲と斜線の勾配(角度)が決められており、建物を建てる場合には、この一定の斜線勾配の内側に収まるように建てなければなりません。
道路斜線制限は、都市計画法でいう全用途地域及び用途地域の指定のない区域で適用され、用途地域や、容積率の限度によって下表のように規定されています。
基本的には上の表ですが、道路の状況によっては規制が緩和されることがあります。主なものは次のとおりです。
【緩和】道路の反対側に広場、公園、川などがある場合
前面道路の反対側に広場、公園、川などがある場合には、基準となる「反対側の道路境界線」は、公園などの向こう側となります。
【緩和】建物を後退(セットバック)して建てる場合
建物を道路境界線よりセットバックして建てる場合には、道路斜線制限の基準となる「反対側の道路境界線」より、セットバックした距離と同じだけ外側を起点とすることができます。
ただし、物置、自転車置場、車庫、受水槽等は軒高、面積などを一定の条件を満たせば、セットバックをする範囲内に含まれていてもよいことになっています。
【緩和】複数の道路に接している場合
敷地が複数の道路に面する場合には、一定の条件を満たす範囲では、幅員の小さいほうの道路側について緩和を認めるというものです。具体的には、
・幅員が最も大きい前面道路の境界線からの水平距離が、その前面道路の幅員の2倍以内
かつ、
・35m以内の区域及び、その他の前面道路の中心線からの水平距離が10mをこえる区域については、すべての前面道路が幅員の最も大きい前面道路と同じ幅員とみなす
というものです。やや複雑な緩和なので、図のようなイメージと思っていただければよいと思います。
【緩和】道路面より高い場合
建物の地盤面が前面の道路面よりも1m以上高い場合には、高低差から1m引いた、残り2分の1の位置だけ道路面が高い位置にあるとして道路斜線を算定するという緩和措置です。
隣地斜線制限
隣地斜線制限(建築基準法第56条第2項)は、隣地の建物と一定の距離を保つことによって、日照、通風などを確保しようというもので、建物の各部分の高さなどを定めています。
具体的には、20mまたは31mの基準の高さから、隣地境界線までの長さの1.25倍から2.5倍以下に建物の高さが制限されるというものです。
なお、第1種低層住居専用地域と第2種低層住居専用地域は、絶対高さ(10mまたは12m)というもので高さが制限されていますので、隣地斜線制限の適用はありません。
基本的には上の表のとおりですが、道路斜線制限と同様に、規制が緩和されることがあります。主なものは次のとおりです。
【緩和】隣地が広場、公園、川である場合
隣地が広場、公園、川である場合、隣地の幅の2分の1だけ外側を隣地境界線とみなすことができるという緩和措置です。
【緩和】建物を後退(セットバック)して建てる場合
【緩和】隣地より低い場合
北側斜線制限
北側斜線制限(建築基準法第56条第3項)は、南側にある建物と一定の距離を保つことによって、北側の敷地の日照、通風などを確保しようというもので、建物の各部分の高さなどを定めています。
この制限では、北側隣地境界線上に一定の高さをとり、そこから引いた斜線勾配の範囲内におさまるように建物を建てなければなりません。北側斜線制限は、第1種及び第2種低層住居専用地域、第1種及び第2種中高層住居専用地域が適用の対象となります。
「北」を指す用語には、「真北(しんぼく)」と「磁北(じほく)」があります。
意味は近いですが、若干違います。「真北」は北極点の方向で、「磁北」は方位磁石がN極を指す向きのことです。北側斜線制限では日照を確保するための制限ですから、「真北」で算定することになっています。
この北側斜線制限についても緩和措置があります。主なものは次のとおりです。
【緩和】北側が水路、線路敷である場合
【緩和】北側より低い場合
制限を有効利用して賃貸物件を建てるには
これまでは各種斜線制限の概要と緩和措置についてお話してきました。
線制限がなく、それぞれが思いのまま自由に建物を建てていたら、土地によっては日照、通風が確保されないこともあり得ますので、この斜線制限は必要な規制であることはお分かりいただけると思います。
大部分の人にとって、日照などの環境条件が良好であれば、快適に過ごすことができるので、それに越したことはないと思われます。
斜線制限に限らず、
建ぺい率(敷地面積に対する建築面積の割合)
容積率(敷地面積に対する建物延べ床面積の割合)
といった規制は、住宅地域、とくに低層住宅専用地域では厳しくなります。
そして、このような規制の厳しい地域では、建てられる建物のボリュームは小さくなります。したがって、一定程度の広さを確保した住宅を建てようと思えば、必要な土地の面積も広くせざるを得ず、一般的に土地建物の総額は高くなります。
しかし、収益物件として考えた場合、このような環境条件にそこまでこだわる必要はあるのでしょうか。
賃貸物件で部屋を借りる人は、住環境も大事なポイントですが、やっぱり家賃を一番に気にすると思われます。
特にワンルームマンションなどの居住者は、昼間は勤務していて家にいないことが多いため、日照などの居住の快適性は比較的気にしない傾向にあります。
そのため、日照などの要因は賃料にそこまで大きく影響しないといえます。
このようなことから、規制が厳しく建物のボリュームが期待できない低層住居専用地域の物件は、収益性という観点からみた場合、あまりおすすめできません。
なぜなら、ボリュームが少なく、専有面積が多く取れない場合には、収入の源である賃料総額が少なくなり、結果的に利回りの低下などに影響してくるためです。
それでも低層住居専用地域で収益物件を検討する場合には、下記のような物件を探したり、建築の計画をしたりすることがポイントになると思います。
ぜひ、参考にしてみてください。
② 「道路斜線」と「北側斜線」が北の一方にかかるため、建物を効率的に建てることができる北向き物件
③ 今回説明を省略しましたが、天空率(下記参照)という規定により、斜線制限が緩和される場合
※天空率は、平成15年1月1日より施行された改正建築基準法内で追加された規定です。条件を満たせば、従来の高さ制限(道路斜線・隣地斜線・北側斜線)の緩和が可能となります。天空率は、魚眼レンズで天空を同心円状に見上げた時に、建物を立体的に映した範囲を除いて、どれだけ空が見えるかの割合のことをいいます。斜線制限を満たした建物と比較して、この天空率を用いた場合の方が通風や採光の確保ができるのであれば、斜線制限の緩和を受けることができるというものです。
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