不動産投資コラム

不動産売却時に使える譲渡所得の特例

税理士・司法書士渡邊 浩滋
不動産売却時に使える譲渡所得の特例

前回(危険!やってはいけない譲渡所得の節税策)は、譲渡所得の節税策のうち間違った節税策を解説しました。

今回は、不動産売却時に使える譲渡所得の特例を解説します。

個人の譲渡所得の節税策としては、大きく3つです。

①特例が使えないかどうか検討する。
②売却年の減価償却をするかしないか検討する。
③他の不動産の売却損と相殺できないか検討する。

今回から、①の特例について具体的に紹介していきたいと思います。

【1分で分かる!新築一棟投資の魅力とは?】東京圏・駅徒歩10分圏内の物件紹介はこちら

譲渡所得の特例

譲渡所得の特例として、充実しているのは、居住用財産(自宅)を売却した場合です。
自宅を売却して多くの税金が取られてしまうと、買い換えるお金がなくなってしまい、住まいがなくなるおそれがあります。
住まいを確保するためにも、自宅を売却した場合には税金上優遇されているのです。

賃貸物件を売却した場合の優遇税制は多くありません。
その中でも不動産投資家が使えそうな特例を紹介していきます。

平成21年(2009年)及び平成22年(2010年)に取得した土地等を譲渡したときの1,000万円の特別控除

(1)概要

個人が、平成21年(2009年)又は平成22年(2010年)に取得した国内にある土地等を長期譲渡にて譲渡した場合には、その土地等に係る譲渡所得の金額から1000万円を控除する特例です。

なお、譲渡所得の金額が1000万円に満たない場合にはその譲渡所得の金額が控除額になります。

(2)背景

2009年リーマンショックにより景気が大きく低迷し、不動産価額を大きく下がってしまいました。
不動産市場を活性化させようと2009年、2010年に土地を購入した人にインセンティブを与えて土地購入を促そうとした景気対策の一環です。
その後、土地価額は上昇していったので、この特例の恩恵を受けられる方は多いと感じます。

(3)譲渡税の計算

譲渡所得から1,000万円を控除することになるので、譲渡所得の計算は下記のようになります。

譲渡所得=譲渡収入-(取得費+譲渡費用)-特別控除(1,000万円)

この特例は長期譲渡でしか使えないため、譲渡所得に対して20.315%が課税されます。

つまり、最大で1,000万円✕20.315%=2,031,500円税金が安くなることになります。

なお、1,000万円を控除する前の譲渡所得が1,000万円未満の場合は、その金額が控除額になります。
つまり、1,000万円を控除してマイナスにはならないという意味です。

(4)適用要件

適用要件

①平成21年1月1日から平成22年12月31日までの間に土地等を取得していること。

②平成21年に取得した土地等は平成27年以降に譲渡すること、また、平成22年に取得した土地等は平成28年以降に譲渡すること。つまり、長期譲渡での譲渡になること。

③親子や夫婦など特別な間柄にある者から取得した土地等ではないこと。
特別な間柄には、生計を一にする親族、内縁関係にある人、特殊な関係のある法人なども含まれます。

④相続、遺贈、贈与、交換、代物弁済及び所有権移転外リース取引により取得した土地等ではないこと。

⑤譲渡した土地等について、収用等の場合の特別控除や事業用資産を買い換えた場合の課税の繰延べなど他の譲渡所得の特例を受けないこと。

(5)適用期限

平成21年、平成22年に購入していれば適用があります。
いつまでに売却しなければならないという期限は設けられておらず、長期譲渡になっていれば、どのタイミングで売却しても適用があります。

(6)その他注意点

土地売却

契約書の日付にも注意

取得とはどの時点をいうのでしょう。

例えば、平成22年に売買契約締結、平成23年に引き渡しを受けていた土地について適用があるのでしょうか?

取得とは、「契約日」か「引渡日」のどちらを選択してもよいことになっています。
たとえ、引渡日が平成21年、平成22年に外れていても、契約日が平成21年、平成22年であれば適用があります。

登記事項証明書の所有権移転の日は、基本的には、引渡日が記載されることになっています。
契約日は、売買契約書を確認しないとわからないことが多いので、登記事項証明書だけではなく、売買契約書でも確認するようにしましょう。

売却のタイミングに注意

この特例の適用がある土地を複数所有していた場合。
これらの土地を同じ年に売却した場合は、譲渡所得から控除されるのは、合計で1,000万円になります。

しかし、これらの土地を、年をまたいで(複数年で)売却した場合には、それぞれの年で譲渡所得から1,000万円ずつ控除を受けることが可能です。

売却するタイミングによって、控除額が変わることになるため、いつ売却するかに気をつけましょう。

親族や同族会社への売却に注意

平成21年、平成22年の「取得」の際には、親族や同族会社からの取得ではないことと制限されています。
しかし、その後の「売却」の際には、特に制限がなく、親族や同族会社への売却でも適用があります。

したがって、売却が親族や同族会社であっても、1,000万円控除の適用を受けることができます。
ただし、この場合の取引金額は、時価を基本にしないと、受贈益などの課税問題が生じますので注意をしてください。

まとめ

  • 平成21年(2009年)又は平成22年(2010年)に不動産を購入した方は優遇される。
  • 売却のタイミングを計画すれば、1,000万円控除を有効活用できる。
  • 同族法人への売却でも1,000万円控除を適用できる。

東京に仕事を求めてやってくる単身者増加中…不動産投資は、立地で決まる

渡邊 浩滋

税理士・司法書士

渡邊 浩滋

税理士・司法書士

経営難だった実家のアパート経営を大きく改善し、大家さん専門の税理士事務所を設立。北海道から沖縄まで幅広く相談を受ける。セミナー、出版、連載など多方面で活躍。専門税理士ネットワーク『knees』メンバー。

記事一覧