敷金や礼金の傾向比較!東京・大阪・名古屋
賃貸借契約にあたって、賃料とは別に「敷金」や「礼金」などの名目で、賃借人(入居者)から賃貸人(大家)に支払われる一時金があります。
ひと昔前までは、敷金・礼金は賃料の2か月分という契約も多かったと思いますが、最近では敷金・礼金ゼロといった物件も見受けられるようになってきました。
今回はこれら一時金について簡単に説明した後、地域によって違いがあるということを紹介させていただきたいと思います。
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敷金・保証金・礼金・敷引きなど一時金の意味合いとは
賃貸物件の大家からしてみれば、賃貸借の開始にあたって、受け取ることができる金銭にいくつかの一時金があります。これは、地域によって、呼び方や意味合いがちがうので注意が必要です。
「敷金」「保証金」とは
賃貸借契約のときに、入居者から大家に預けられるものであり、賃貸借契約の終了に伴い返還されるものをいいます。
大家は、入居者の賃料不払いのリスクや退去時の原状回復費用を担保するために、「敷金」「保証金」というものが必要になります。
ちなみに退去時に返還される額は、敷金・保証金から未払いの賃料や損害賠償債務などを差し引いた残りの分となります。
いろいろある一時金の中であくまでも、敷金・保証金というのは預り金であるというのがポイントです。
これまで敷金は、民法上では定義されておらず、裁判所の判例などの見解をもとに解釈されてきましたが、このほど、民法の改正(平成29年6月2日公布。一部の規定を除き、公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日が施行日)に伴い、一部、明文化されましたので、参考までに下記に載せておきます。
一. 賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき。
二. 賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき。
2.賃貸人は、賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭の給付を目的とする債務を履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充てることができる。この場合において、賃借人は、賃貸人に対し、敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができない。
敷金 第622条の2(改正民法)
敷金と保証金の意味合いはほぼ同じといわれていますが、関東地方では「敷金」、関西地方では「保証金」と呼ばれていることが多いようです。
「礼金」「権利金」とは
一時金の中には、「礼金」「権利金」と呼ばれるものがあり、いくつかの性質があります。
まずは字のごとく、お礼の意味です。諸説ありますが、関東大震災のときに、家屋を失って困っている人が、家主に優先的に部屋を貸してもらうために、謝礼の意味で支払ったのが始まりといわれています。
そのほか、家賃の前払い的な意味もあるようです。礼金や権利金は、一般に敷金・保証金と異なり、大家が返還する義務がないものとされています。そのため、大家にとっては、月々でしか受け取れない賃料よりも、先に礼金として収入を確保できるのでメリットがあります。
大家からしてみれば、返還しなくても良いまとまった金銭をはじめに受け取ることができるため、その資金を他の投資などに回すことができるといった旨味もあります。
「敷引き」「敷金償却」とは
一時金に関連して、「敷引き(しきびき)」や、「敷金償却」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
これは、関西地方や九州地方など主に西日本で行われている慣習です。
先ほど、敷金は賃貸借契約の終了時に、大家が返還する必要があるものといいましたが、契約上の特約で、入居者に返さなくても良い金額をあらかじめ定めておくことがあります。これを敷引きないしは敷金償却といいます。
通常、敷金が3か月であれば、そこから入居者の責任による汚れ、破損を修繕するのにかかる原状回復費用などを引いた額が大家に返還されます。しかし、敷引きが2か月となっている場合、どんなに部屋をきれいに使っていても、2か月分は無条件で返還されないということになります。敷引きの額は入居年数が長いほど高くなるように段階的に設定しているケースも多いようです。
このように礼金がなくても、敷引きがある地域の場合、同じく無条件に返還されない金銭があるのだということを覚えておきましょう。
なお、敷引きの特約の有効性は、消費者契約法との絡みで議論があります。最高裁の判決(平成23年3月24日)では、敷引金の額が高額に過ぎると評価すべきものである場合にはじめて消費者契約法10条により無効となる余地が生じることになるとのことですが、敷引き自体の特約について、否定するものではありません。
判例:敷金返還等請求事件
三大都市圏の敷金・礼金の相場は?
国土交通省が公表している「平成29年度住宅市場動向調査報告書」によると、三大都市圏を対象とした民間賃貸住宅では、敷金、礼金とも1か月というのが多いようです。
※三大都市圏・・・首都圏:東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県、中京圏:愛知県、岐阜県、三重県、近畿圏:大阪府、京都府、兵庫県
国土交通省・住宅局「平成29年度住宅市場動向調査報告書(平成30年3月)」
敷金や礼金の相場は、立地条件、築年数などによって、ばらつきがありますが、東京では敷金・礼金とも1か月くらいが標準でしょうか。敷金・礼金どちらも2か月というところも多かったですが、徐々に月数は低下しているようです。
大阪では、前述のように敷引きというものが慣習として残っており、預り金のうち、返還されない額が多いという印象です。
敷金(敷引き後の保証金の意味)1か月、礼金(敷引きの意味)2か月というところでしょうか。しかし、敷引きは、最近減少している傾向にあり、水準は東京に近づいてきているといえるでしょう。
名古屋は東京と同様に敷金・礼金ともに1か月というところが多いようです。ただし、家賃が東京と比べると安いので、総額で比べると少なくなります。
また、いずれの地域でも、入居者を集めるために力を入れており、敷金・礼金ゼロという物件も見られるようになってきました。
増えてきている敷金礼金ゼロ
紹介してきましたように、近年、敷金・礼金は低下傾向にあり、ゼロゼロ物件も増えてきました。入居者にとっては、初期の入居コストが下がるので、嬉しいことではありますが、何かデメリットはあるのでしょうか。
敷金・礼金がかからないからといって、初期費用が全くゼロになるというわけではありません。
賃貸人からしてみると、部屋を貸せる状態にしなければならないので、当然、修繕費用が発生します。そこで、クリーニング費用などの名目で、部屋の広さなどに応じて、2~3万円(1Kなど)を徴収するように工夫しています。また、初期費用を安くする分、月々の家賃を相場よりも若干高くしている場合も見られます。
また、ゼロゼロ物件であるのは、何か理由があると思われます。一般にオフシーズである夏ごろにキャンペーンとして、実施されている場合はともかく、魅力が薄く人気がない物件や、実際にワケあり物件であることも多いので、入居者側は敷金礼金がゼロである理由を慎重に考えてみる必要があると思います。
敷金・礼金はどう設定する?
敷金や礼金を設定するには、やはり近隣の競合物件と比較して、どうなのかを調査することが重要になってきます。
入居希望者が初期費用の高さを理由に、契約を断念せざるを得ないということも良くあります。
募集するシーズンや築年数が経過して、近隣に新しい物件が増えてきたなどの事情があれば、見直しも必要になってくるでしょう。
また、契約に至る最終段階の交渉では、月々の賃料を少し高くする代わりに、礼金を下げるもしくはゼロにするなど、入居者の希望に柔軟に対応することもひとつの方法かと思われます。
とはいうものの、敷金については、あくまで賃料不払いなどのときの担保になるものですので、ゼロにするのは個人的にはあまりお勧めしません。
まとめ
最後に、賃貸経営の一時金のまとめです。
- 一時金にはいろいろな呼び方があり、性格もさまざまなので要注意。
- 敷引きという西日本ならではの慣習がある。
- 敷金・礼金の月数はいずれも低下傾向にある。
- 敷金礼金ゼロの物件が増えているが、人気がない物件であることが多い。
- 敷金・礼金の設定は競合物件を十分に調査し、状況によって柔軟に対応する。
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