令和3年 地価調査の結果を不動産鑑定士が解説
このほど、令和3年の全国の基準地価が発表されました。
国土交通省のホームページで詳細が公開されていますが、この記事では私なりに結果の要約をしてみたいと思います。
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地価調査とは…
まず、不動産鑑定士の主な仕事として地価公示がありますが、これと並んで重要なものが地価調査といわれるものです。
簡単にいうと、1年に1回、地域の代表的なポイントの地価をアナウンスするというものです。
地価公示は1月1日時点の地価を国が公表するのに対し、地価調査は7月1日時点の地価を都道府県知事が公表するものと覚えておいていただければと思います。
公表される地価ですが、これは1㎡あたりの単価になります。
今年の地価調査をひとことでいうと…
さて、早速、今年の地価調査ですが、結論から申し上げますと、地域や土地の用途によって、明暗がくっきり分かれたという印象です。
前回の地価公示の際の記事 では、新型コロナウイルス感染症による影響を多大に受けたとお伝えしました。
今回の地価調査でも、引き続き、新型コロナの影響を受けて下落している地点が多かったです。
しかし、中には地価が回復してきて、新型コロナ感染拡大前の水準に戻している地点、もしくは、その水準よりも上回った地点も散見されました。
全国の平均変動率
(注)
1.三大都市圏とは、東京圏、大阪圏、名古屋圏をいう。
2.東京圏とは、首都圏整備法による既成市街地及び近郊整備地帯を含む市区町村の区域をいう。
3.大阪圏とは、近畿圏整備法による既成都市区域及び近郊整備区域を含む市町村の区域をいう。
4.名古屋圏とは、中部圏開発整備法による都市整備区域を含む市町村の区域をいう。
5.地方圏とは、三大都市圏を除く地域をいう。
6.地方圏(地方四市)とは、札幌市、仙台市、広島市、福岡市の4市をいう。
7.地方圏(その他)とは、地方圏の地方四市を除いた市町村の区域をいう。
それでは全国から見てみましょう。
全用途の平均変動率ですが、2年連続の下落となり▲0.4%となりました。
用途別に見てみると、住宅地は下落が続いていますが、下落率としては縮小しています。
次に商業地ですが、こちらは2年連続の下落となり、しかも下落率は前年よりも拡大しています。
一方で、工業地は4年連続の上昇となり、上昇率も+0.8%と大幅に拡大しています。
まさに用途によって変動率はバラバラ、地価の明暗がくっきり分かれています。
三大都市圏の平均変動率
次に三大都市圏 を見てみますと、住宅地の平均は東京圏と名古屋圏ではプラスでした。
東京圏では+0.1%、名古屋圏で+0.3%、他方で大阪圏では▲0.3%でした。
商業地の平均は、三大都市圏では東京圏と名古屋圏がプラス、大阪圏がマイナスでした。
それぞれ、東京圏が+0.1%、大阪圏が▲0.6%、名古屋圏が+1.0%となりました。
大阪市中央区の難波周辺の商業地の地点では、インバウンド消費の激減などで、主に飲食店舗、物販店舗、ホテル等が大きな影響を受け、下落率の上位に多く入る結果となりました。
対照的に、名古屋圏では、代表的な観光地に比べ、インバウンド需要がそれほど高くなかったため、その影響も比較的軽微に留まったと考えられています。
国土交通省HP「基準地価格及び変動率順位表/下落率順位表(全国)」
工業地の変動率は、住宅地、商業地に比べて堅調で、平均で+1.9%でした。昨年が+1.2%でしたので上昇率が拡大しています。東京圏が+2.3%、大阪圏が+1.7%、名古屋圏が1.2%といずれの地域でもプラスとなりました。
地方圏の平均変動率
次に地方圏を見てみます。住宅地の平均は▲0.7%でした。
ここで地方4市という分類がありますが、札幌市、仙台市、広島市、福岡市のことを指しています。地方4市は4.2%、その他の地域は▲0.8%でした。
商業地の平均は▲0.7%、地方4市は+4.6%、その他は▲1.0%でした。工業地の平均は+0.4%、地方4市は+7.4%、その他は+0.3%となりました。
これを見ると地方4市はいずれの用途も比較的大きな上昇率を示し、底堅い動きとなりました。
中でも札幌市住宅地の7.4%、福岡市商業地の7.7%の上昇が目立っています。
特に福岡市は中心部で再開発が進んでいるなどの影響で、全国商業地の上昇率上位10地点のうち、7地点がランクインしています。
国土交通省HP「基準地価格及び変動率順位表/上昇率順位表(全国)」
そのほか、住宅地で特徴的だったのは、全国住宅地の上昇率上位の2~4位に入った北海道の北広島市です。
理由としては、北海道日本ハムファイターズの本拠地を含む「北海道ボールパーク」の開業が予定されており、地域の発展と雇用の増大といった期待感が地価にも反映されました。
開業は2023年3月予定とまだ少し時間がありますが、球場とその周辺の施設、住宅の一体開発がどうなっていくのかというのは非常に興味深いところです。
HOKKAIDO BALLPARK F VILLAGE HP
今年の地価調査まとめ
さて、今回の地価調査のポイントは、用途によってはっきりと変動率に差が出たということです。
商業地は、新型コロナの影響を引き続き受けており、飲食店、ホテルなどを中心とする地域では回復が遅れています。
再開発の予定など特別な要因のない地域は概ね弱含みという結果でした。
工業地については今回、際立って高い上昇率となりました。
巣ごもり需要によるEコマース市場が好調であり、それに伴い工業用地の需要が旺盛な状態です。特に高速道路のインターに近い大規模画地については、JーREITや国内外ファンドの投資意欲は強く、高価格での取引も多数見られます。
この流れはしばらく続いていくものと思われます。
住宅地の変動率は商業地と工業地の中間といったところです。
新型コロナの影響を受ける前から下落していたところは引き続き下落していますが、都心部で利便性が高く、住環境が良好な住宅地については、新型コロナの感染拡大前の水準に地価が戻ってきています。
今後のポイント
今後のポイントとしては、新型コロナワクチンの接種が進み、人の動きが活発化してくると、経済が回り始めます。
停滞していた飲食、観光業などの業績が上向き、商業地の地価にも少しずつ変化が出てくるものと思われます。
このほか、新型コロナを機に、テレワークが急速に普及してきたことにより、オフィスの移転、縮小を検討する企業も増えてきています。
都心部のオフィス空室率はじわりじわりと上がってきています。ビルオーナーが受け取れる賃料の変化は地価に影響してきますので、この動向に目を配らせる必要があります。
近いところでは、自由民主党の総裁選が終わり、それに続く衆議院議員選挙の行方も注目されます。
さまざまな要因が絡み合って、地価は推移していきますので、この辺りも注目すべきポイントになりそうです。
You Tube動画:「不動産鑑定士が解説!令和3年地価調査」はこちら
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