不動産投資コラム

3階建住宅の旅館業への用途変更と『竪穴区画』

行政書士石井くるみ
3階建住宅の旅館業への用途変更と『竪穴区画』

平成30年建築基準法改正により、3階建・200㎡未満の建物について、旅館・ホテル等(簡易宿所を含む)に用途変更した場合の耐火建築物要求を除外する規制緩和が行われました。

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規制緩和の内容

土地がせまい東京など都心部においては、3階建ての住宅が多くありますが、既存建築物では、従来の耐火建築物要求への対応が難しく、用途変更を断念せざるを得ませんでした。

それが、この規制緩和により、3階建ての住宅における旅館業施設への利活用が促進されることとなりました

しかし、3階建ての戸建住宅で旅館業法に基づく許可を受けようとすると、建築基準法施行令の改正により新たに規定された『竪穴区画』の設置が実務上のハードルとなるケースが多々見受けられます。

『竪穴区画』とは

『竪穴区画』とは、火災時の煙突効果による火煙の伝播を防止する目的で設けられる防火区画のひとつです。
火は上へ上へと向かう性質があるので、竪に延焼が広がることを防ぐことが目的です。
事務所ビルなどにおいて、エレベーターや階段と各部屋の間に通路が存在し、それぞれ鉄扉で区切られている構造をイメージしてください。

防火扉

もともと、「主要部を準耐火構造等とした建築物」(例えば耐火建築物など)であって地階または3階以上の階に居室があるものについては、竪穴部分(吹抜きとなっている部分、階段部分の部分など)と当該竪穴以外の部分を、一定の基準に基づく防火設備等で区画しなければならないとされています。

ただし、この規定については緩和措置があり、階数が3以下で延べ面積200㎡以内の戸建住宅等については、「吹抜け」、「階段」、「昇降路」について、その区画が免除されています(建築基準法施行令112条10項2号)。

したがって、3階に居室がある旅館・ホテルは例外なく耐火建築物とされていたことから、竪穴区画の設置も当然に義務付けられてきました。

安全措置として竪穴区画の設置義務が新設

しかし、今回の小規模建築物における耐火建築物要求の緩和を受け、主要部が準耐火構造等ではない3階建ての建築物が旅館・ホテルの用途に供されることが可能となりました

平成30年建築基準法改正では、従前は想定されていなかった(存在し得なかった)このような建築物について、利用者の避難に要する時間を考慮した安全措置として、竪穴区画の設置義務が新設されたのです。

3階に居室を有する旅館・ホテルの用に供する小規模建築物(主要構造部を準耐火構造等としたものを除く)については、竪穴部分と竪穴部分以外の部分を間仕切壁又は戸(ただし、ふすまや障子等、火災時の接炎によって直ちに火災が貫通するおそれのあるものは除く)で区画しなければならない。
建築基準法施行令112条12項

通常の竪穴区画は、鉄扉など一定の防火性能のあるものが求められます(開閉に力が必要な重い扉をイメージしています)。

しかし、新設された当該規定における「間仕切壁」または「戸」については、ふすまや障子等が除かれる以外に特段の防炎性能は要求されていません(よほど燃えやすいものでなければ基本的に問題なし)。

実情と用途変更を考える際のポイント

しかし、そもそも既存の住宅は竪穴区画を設けることを想定せずに建築されていることが通常ですので、構造的に新たに竪穴部分とそれ以外の部分を区画することが困難なケースや、技術的には区画することができても一定規模の工事を要し、コスト・ベネフィットの観点から工事を断念するケースが多いのが実情となっています。

なお、用途変更の確認申請を不要とする対象面積の上限が200㎡に引き上げられたことにより、小規模建築物を旅館・ホテルに転用する際の建築基準法令の適合性確保(竪穴区画の設置を含む)は、建築主が自らの責任において判断することとなりました。

したがって、戸建住宅等を活用して旅館業施設への用途変更を考える場合には、2階建てや3階建てであっても竪穴区画の確保が可能な構造の建物をえらぶことがポイントです。

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石井 くるみ

行政書士・宅地建物取引士

石井 くるみ

行政書士・宅地建物取引士

日本橋くるみ行政書士事務所代表。東京都行政書士会中央支部理事。民泊・旅館業に関する講演・セミナーの実績多数。著書「民泊のすべて」(大成出版社、2017年度日本不動産学会著作賞(実務部門)受賞)

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