不動産投資コラム

REITから学ぶ、民泊・ホテルの経営指標(後編)

行政書士石井くるみ
REITから学ぶ、民泊・ホテルの経営指標(後編)

前回までの記事 では、REIT市場が不動産投資の市況を知る有益なバロメーターであること、REIT市場全般的に、コロナショックによる不動産投資市況は下がっていることを解説しました。

さらに、各REIT(投資法人)の個別銘柄においても、価格の下落幅には差異があります。
今回は、「ジャパン・ホテル・リート投資法人(8985)」と「星野リゾート・リート投資法人(3287)」の価格を比較して、なぜ同じホテル特化型REITであっても、価格の値下がり幅や回復の状況等、市場評価が異なるのかを考察した上で、今後の民泊・ホテルの経営戦略の参考にしたいと考えます。

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ジャパン・ホテル・リート投資法人が保有するホテルとコロナ以後の業績

ジャパン・ホテル・リート投資法人の公式サイト(2020年10月29日時点)によると、投資法人が保有する物件数は42物件、物件所在地は札幌、東京、名古屋、京都、大阪、広島、福岡、沖縄と全国の主要都市が中心です。

取得価額ベースのグレードを見ると、ラグジュアリータイプが21%、アッパーミドルが33.3%、ミッドプライスが41%、エコノミーが4.7%となっており、変動賃料制を導入している24のホテルの運営実績は、2019年は14,178円だったRevPAR(=Revenue per available roomの略で、販売可能な客室1室あたりの売上)は、2020年は4,993円と-64,8%となりました。
RevPARはホテルの経営状況を示す指標として非常に重要です。

経営不振の背景としては、コロナショックによる外国人旅行者・国内旅行者、ビジネス出張等の減少の打撃を受けたためと考えられます。
月別の主要指標推移は下記のようになっています。

【ジャパン・ホテルリート投資法人/変動賃料等導入24ホテルの月別主要指標推移】
変動賃料等導入

ジャパン・ホテルリート投資法人

星野リゾート・リート投資法人が保有するホテルとコロナ以後の業績

次に星野リゾート・リート投資法人の公式サイトを見ると、2020年11月2日時点で投資法人が保有する物件は62物件、物件所在地は、旭川、苫小牧、函館、福島、新潟、軽井沢、金沢、伊東、浜松、大阪、神戸、高知、倉敷、福岡、長崎、那覇、竹富島など、都市だけではなく地方都市に分散しています。

ブランド別では、星のやが12%、星野リゾート(リゾナーレ・界・その他)が20.6%と星野リゾート運営物件が多く、都市観光ホテル(ハイアットやロードサイド)が53.1%となっています。

2020年10月期の業績を見ると、星野リゾートと星野リゾート以外の運営物件で大きく異なります。
星野リゾート以外の運営物件は、やはり外国人旅行者やビジネス需要の縮小、イベントやレジャーの消失により大きな打撃を受け、RevPARは4114円、前年度変化率は-47.9%です。
他方、星野リゾートブランドのRevPARは3万1445円、前年度変化率は-7.6%に踏みとどまりました

【星野リゾート・リート投資法人/主要3ブランドRevPAR変化率(星野リゾート運営)】

主要3ブランドRevPAR変化率

【星野リゾート・リート投資法人/ブランド別RevPAR変化率(星野リゾート以外運営)】

ブランド別RevPAR変化率

星野リゾート・リート投資法人

REIT価格・推移に差異が生じた理由とは‥‥?

このような違いが生じた原因はさまざまに考えられますが、例えば、次の様な理由が代表的なものとして考えられます。

コロナ下においてインバウンドの外国人旅行者が激減する中、市場では『国内旅行のニーズ』を奪い合うこととなった。

ビジネスを目的とした国内旅行においては、不要不急の外出自粛の機運が高まり、出張やビジネス団体等の需要が減少した。

レジャーを目的とした国内旅行においては、三密回避が可能で、他人との距離を保つことができる、『都心部より郊外』や『集合型宿泊よりリゾート型』の需要が高まった。

政府によるGO TOトラベル事業の適用により、低価格帯の宿泊より、補助額が大きい高価格帯の宿泊需要が高まった。

同じホテル特化型REITにおいても、その保有するホテルの内容が「都市部の密集・小部屋中心のビジネスホテル」か、「空間がゆったり密を避けるリゾートホテル」かで大きく稼働状況が異なり、市場はそのちがいを敏感に感じ取り、価格に影響していることが読み取れます。

ここに、withコロナ時代における、新たなホテル経営戦略のヒントが転がっています。

withコロナ時代におけるホテル経営戦略

世界経済は、新型コロナウイルス感染症拡大の大きな影響を受けており、日本も例外ではありません。
国内においてワクチン接種が随時進められており、その効果と、ウイルスの変異による冬季ごとの感染症の流行の懸念など、見通しの不透明感が存在しています。
訪日外国人旅行者の減少や、新しい生活様式の普及した環境の中、観光客のニーズに応える宿泊施設とは、一般的にコモディティ化したサービスではなく、運営力や立地等の優位性で差別化された施設であると考えられます。

コロナウイルスの感染が拡大する前の日本では、訪日外国人旅行者の成長や東京オリンピック・パラリンピックの開催に向けた宿泊需要の高まりを受け、企画化された宿泊施設・サービスが大量かつ効率的に生産されてきました。
しかし、需要が急速に縮んだ現状においては、他の施設との競争優位性を保つことが重要になります。

ソーシャルディスタンスの確保やリモートワーク、家族など独立したグループにおけるバケーションで好まれるのは、1つの建物にぎゅうぎゅうと狭い客室が押し込まれた施設ではなく、都市型ホテルでも、ある程度余裕を持った空間を確保した施設や、郊外に所在するヴィラタイプのリゾート施設と考えられます。

また、ソフト優位性を確立するためには、高い専門性を有するオペレーターによる行き届いたサービスの提供が重要となります。
withコロナ時代に求められるサービスは過剰な接触ではなく、接触機会を少なくしたうえで、安心安全なサービスを提供することが重要です。
すみずみまで行届いた清掃(消毒)による清潔な客室の提供はもちろん、宿泊施設スタッフとの交流がなくとも宿泊者が不満を感じることがない、ていねいな非接触型のコミュニケーション(事前および滞在中のメールや電話でのやり取りなど)を図る体制が重要と考えられます。

気軽に大人数での旅行や、食事をすることが難しいwithコロナ時代において、私たちの旅行計画は今まで以上に特別な存在になっています。
そこで選ばれるのは、「低品質・ロープライス」ではなく、「多少価格は高くても、特別な機会にふさわしい、安心でとっておきの体験」ではないでしょうか。

REIT市場からコロナ後のホテル経営戦略を考えてみてはいかがでしょうか。

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石井 くるみ

行政書士・宅地建物取引士

石井 くるみ

行政書士・宅地建物取引士

日本橋くるみ行政書士事務所代表。東京都行政書士会中央支部理事。民泊・旅館業に関する講演・セミナーの実績多数。著書「民泊のすべて」(大成出版社、2017年度日本不動産学会著作賞(実務部門)受賞)

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