土地の値段は「一物五価」!? 目的と価格の違い
モノの価格をあらわすとき、同じモノであってもいろいろな価格が存在します。たとえば、電化製品でいうと、「定価」「希望小売価格」「オープン価格」…などがあります。
土地の価格についても、同じ場所、同じ面積、同じ条件の土地であっても様々な価格が存在します。特に土地は、「一物五価」ともいわれ、価格の種類が多く、それぞれの目的によって価格が変わってきますので、少し混乱してしまうかもしれません。
「一物五価」とは、1つのモノで5つの価格があるということで、「地価公示(公示価格)」、「地価調査(標準価格)」、「相続税路線価」、「固定資産税路線価」、「実勢価格(時価)」のことをいいます。
このように、すべて同じ土地の価格を指しているにもかかわらず、金額はバラバラになっています。ここでは、5つの土地価格の違いについて解説していきます。
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5つの価格のポイント
地価公示(公示価格)
地価公示とは、新聞やネットニュースで、今年の地価は上がった、下がったという内容で、大々的に発表されるのでご存知の方も多いと思います。私ども不動産鑑定士の仕事でも代表的な業務のひとつで、全国の多くの鑑定士が業務に携わっています。
地価公示は、国土交通省の土地鑑定委員会が、地価公示法に基づいて、鑑定評価員(不動産鑑定士)による鑑定評価をもとに、毎年1月1日時点の標準地の1㎡あたりの正常な価格を公表するものです。毎年3月下旬に発表されます。
土地の価格は、画地ごとにすべて条件が違い、同じものはありません。すべての土地を評価すれば一番良いのですが、現実的には難しいので、その地域の代表的な土地(標準地)を選定して、その標準地の価格を公表することとしています。
地価公示の目的は、土地取引を行う際に、売買価格の指標にしてもらおうというものです。不動産の取引価格は秘匿性がとても高いため、十分な情報が手に入りにくいといわれます。公的な機関が、公正な評価額の指標を示すことで、不動産市場にあまり精通していない人にも取引の際の価格の目安を知ってもらうのに役立っています。
地価調査(標準価格)
地価調査とは、ご説明した地価公示と内容としては近いものです。ただし、地価調査は、国ではなく、国土利用計画法などに基づき、各都道府県が毎年7月1日時点の基準地の1㎡あたりの正常な価格を公表するものです。
地価調査では1月1日ではなく、7月1日時点の価格を示しているのが、ほかの価格と違うところで、毎年9月下旬に発表されます。地価調査の代表的な土地(基準地)は、地価公示の標準地と異なる地点を設定していることが多いのですが、一定数を標準地と同じ地点で設定しています。そのため、地価公示と併用することによって、地域の半年ごとの地価変動率を把握することができるといった特徴があります。このような意味で、地価調査は地価公示の補完的な役割を果たすものといわれています。
相続税路線価(相続税評価額)
相続税路線価とは、国税庁が毎年7月初旬に公表する「財産評価基準書」によって、毎年1月1日時点の価格を示すものです。相続税路線価の目的は、相続税や贈与税を算定する際の基礎とするためです。
相続税評価額を算定する場合には、「路線価方式」と「倍率方式」というものがあります。詳しい説明は別の機会に譲りますが、市街地の宅地で「路線価方式」を使う場合に、この相続税路線価を使うことになります。
路線価といわれるものには、次に出てくる固定資産税路線価もありますが、単に路線価というときは、この相続税路線価を指すことが多いと思います。
固定資産税路線価(固定資産税評価額)
固定資産税路線価とは、各市町村(東京23区は都)が、3年に1回、4月~6月ごろに発表するものです。固定資産税路線価の目的は、固定資産税、都市計画税、登録免許税、不動産取得税を算定する際の基礎にするためです。
固定資産税路線価がほかの価格と違うのは、毎年ではなく3年に1回というところです。また、算定する価格の基準日ですが、基準年度の前年の1月1日となります。直近でいうと、次の基準年度は2021年、価格の基準日は2020年1月1日ということになります。
本来は、毎年度評価替えを行うことが理想的ですが、コストや手間の問題があることから、原則として3年間評価額は据え置きとなります。ここで原則と言いましたのは、価格の基準日から地価が下落した場合に限り、「下落措置修正」というものがあり、実際の課税の計算においては、地価下落を反映した評価額になります。
実勢価格(時価)
最後に実勢価格があります。これは実際に不動産市場で取引される価格であり、実際の取引が成立する価格のことです。時価ともいわれ、売主(供給側)と買主(需要側)の当事者間で決定される価格です。実際に成約した場合には、その成約価格が実勢価格になり、取引がない場合には、上記の公的な評価や周辺の取引事例から推定した価格、あるいは不動産鑑定の評価額等がこれに該当します。
一物五価のまとめ
種類 | 決定者 | 基準日 | 発表日 | 目的 |
---|---|---|---|---|
地価公示 (公示価格) |
国土交通省 | 毎年1月1日 | 3月下旬 | 売買等の目安 |
地価調査 (標準価格) |
都道府県 | 毎年7月1日 | 9月下旬 | 売買等の目安 |
相続税路線価 (相続税評価額) |
国税局 | 毎年1月1日 | 7月上旬 | 相続税、贈与税等 の算定基礎 |
固定資産税路線価 (固定資産税評価額) |
市町村 ※東京23区は都 |
基準年度 (3年ごと) 前年1月1日 |
4月~6月 | 固定資産税、 都市計画税、 不動産取得税、 登録免許税の算定基礎 |
実勢価格 (時価) |
当事者間 | ― | ― | 実際に不動産市場で 取引される価格 |
※地価調査を除いて、「一物四価」と整理されることもあります。
それぞれの価格の関係
以上により、5つの価格を説明してきました。それぞれ目的や決定者が異なっていますので、関連性がないように思われるかもしれませんが、実は価格については、次のようにある程度の関連性があります。
- 地価公示と地価調査による価格は同水準
- 相続税路線価は、地価公示および地価調査による価格のおおむね80%の水準
- 固定資産税路線価は、地価公示および地価調査による価格のおおむね70%の水準
- 実勢価格は、地価公示および地価調査による価格と同水準であるのが望ましいですが、取引当事者間の事情によって左右されるので、同一水準でない場合も見られます。また、地価上昇及び地価下落が激しい局面では、実勢価格と地価公示および地価調査による価格は離れる傾向にあります。
このように各価格にはある程度の関連性があります。実際には、それぞれの土地の条件(接する道路の状況、方位、形状、規模など)によって、色々な補正をして算定しますので、あくまでも目安と考えていただければと思います。
実際のある地点の土地価格を比較
一物五価の価格の関係を、よりイメージしやすいように、ある地点(東京都中野区の地価公示・地価調査のポイント)について、調査してみました。
②地価調査の基準地(平成30年7月1日時点):996,000円/㎡
③相続税路線価(平成30年1月1日時点) :740,000円/㎡
④固定資産税路線価(平成29年1月1日時点):596,000円/㎡
⑤実勢価格:①の1.2~1.5倍程度(現時点推定)
- ②は①と価格の基準日が半年ずれていますので、①より約7.1%高くなっています。つまり半年で約7.1%上昇したということです。
- ③は①と価格の基準日が同じです。上記の「それぞれの価格の関係」で説明しました通り、①の約80%の水準となっています。
- ④は①と価格の基準日が1年ずれています。価格は①の約64%の水準となっています。時点が1年ずれていることを考慮すれば、①の約70%の水準というのは、おおむね合っていると思われます。
このように価格の関連性がお分かりいただけましたでしょうか。土地の価格には色々ありますが、それぞれに目的があり、ある程度の価格の関連性があるということを知っていただけたらと思います。
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