IR(統合型リゾート)事業/不動産投資に影響は?
最近ニュースなどで耳にするようになったIR(統合型リゾート)。
例えば横浜市では、山下公園のすぐ近くに位置する山下ふ頭にIRを誘致する予定で、近隣住民に対する説明会が開催され激しい議論が行われています。
また、IRといえば中国企業「500ドットコム」から賄賂を受け取って逮捕起訴された秋元議員の話題も記憶に新しいところです。
そこで本記事では、さまざまな利権が絡むIR誘致が周辺の不動産市場にどのような影響を与えるのかについて、海外の論文なども参考にしながら客観的に解説していきたいと思います。
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IR(統合型リゾート)とは
そもそもIR(統合型リゾート)とは、カジノをはじめホテルやショッピングモール、劇場、展示会場などが一か所に集まった「大型複合エンターテイメント施設」のことをいいます。
近年の日本ではIRリゾートというとカジノのイメージが強くなっていますが、カジノはあくまでIRリゾートの一構成要素に過ぎません。
ですが、日本人にとってカジノは特別な位置づけでもあることから、IR誘致について各地域で様々な議論が起きているのです。
IRというビッグプロジェクトを成功に導くために、参入を目指す企業や地方自治体を支援する組織のことを「IRビジネスグループ」といい、事業の支援や出資スキームのアドバイス、さらには懸念されているギャンブル依存症対策などについても課題解決に向けたアドバイスをしています。
IR誘致のメリット
IRを誘致することで最も期待されているのが、地域経済の活性化です。
IRのような大型商業施設が誘致されれば、多くの観光客が訪れる観光スポットになるため、大規模な消費行動が発生し地域経済の活性化につながることが期待できます。
また、地域の「雇用増加」にも寄与することから地域全体の所得が底上げされ、ますます地域経済がうまく循環すると考えられるでしょう。
国内ではまだカジノ誘致による経済活性化の実績は未知数ですが、大型エンターテイメント施設つながりで東京ディズニーランドの実績を検証してみると、地域経済に与えるメリットが見えてきます。
税収で潤う地域経済
千葉県浦安市は東京ディズニーランドが開業して一大ブームが巻き起こったことで、地域経済に多大な影響をもたらしました。
都市データパック2019年度版によると、「財政が健全な都市ランキング」で千葉県浦安市は全国第4位、さらに財政力では全国第1位という地位に君臨しています。
参考:「財政健全度」全国トップ400自治体ランキング/東洋経済オンライン
もちろんすべてがディズニーランドだけの効果ではないものの、年間約4,000億円も売り上げる巨大テーマパークから生じる法人住民税や固定資産税による税収は、地方自治体の財政を立て直して余りあるほどのパワーがあるのです。
IR誘致のデメリット
IR誘致のデメリットは、すでに各地で行われている住民説明会でも議論されていることですが、やはり最も多い意見は「ギャンブル依存症」やそれに伴う「犯罪の増加」に対する懸念です。
これまで日本ではカジノをエンターテイメントとして取り入れてこなかったため、「カジノ=ギャンブル」というイメージがあり、自分が居住する周辺地域にカジノができることに対してネガティブな印象が強いといえます。
ただすでに日本にはパチンコやスロットが一般大衆化していることから、カジノができたことでいきなりギャンブル依存症の人が増えるかというと、なんとも難しいところでしょう。
IRが住宅市場へ与える影響は?
カジノが周辺の住宅市場に与える影響について、アメリカで気になる分析結果があります。Wenz (2014)※によると、「カジノ施設の有無」や「カジノ施設の規模」が周辺の住宅価格に影響を与えるとの論文を発表しているのです。
※参考:Wenz, M. (2014), “Valuing Casinos as a Local Amenity
カジノがあると住宅価格はどうなる?
同論文によると、カジノが存在する周辺地域の住宅価格は、施設の規模と人口密度の平均値周りで見ると約1%下落するとの結果が出たそうです。
また、下落幅は人口密度の影響を受けるようで人口密度が高い地域の場合は、約5.5%も下落するとの結果が明らかになっています。
分析の基となったデータは、アメリカでカジノが増加した1990~2000年のもののため、必ずしも現在に当てはまるとは限りません。
ただ1つの可能性として、カジノができることで「周辺の人口密度が高いエリアにある住宅」については、一定の価格下落リスクを負う可能性があるといえるかもしれません。
住宅市場については一定のネガティブな影響が考えられますが、商業施設の場合はどのような影響を受けるのでしょうか。
例えば、IRを誘致する場合、カジノなどIR施設で多くの人がお金を消費することから周辺商業施設や商店街の売り上げが減少するのではないかという懸念が上がることがあります。
この点について「Wiley and Walker (2011)」の米国デトロイトにおける2001年~2008年の商業施設取引データを分析した論文によると、カジノ施設の収益が1%増加すると、周辺8km以内の商業施設の取引価格が平均約1.2%上昇するそうです。
商業施設の中でも特にレストランなど、カジノに付随して利用する可能性が高い商業施設については、上昇効果がより大きいことがわかりました。
これらのことから、IR誘致によってカジノでの収益が増えればそれに伴って周辺地域の消費行動が促進する期待が持てます。
不動産投資に与える影響
IR誘致に伴う不動産投資への影響は、正直なところかなり未知数です。
ただ、アメリカの論文などを参考に考えると、IRリゾートが周辺地域にできたとしても家賃の変動にはそこまで直接的に影響しないと予想できます。
住宅価格については若干下落する可能性が考えられますが、賃貸物件については実需の住宅ほどの影響を受けない可能性も十分あり得るでしょう。
間接的な恩恵を期待
IRリゾートを誘致することで、少なくとも周辺の道路事情や交通機関の整備は進められるはずなので、これまで以上に交通の便がよくなって賃貸需要が高まる可能性は十分考えられます。
ただ、反対に現在の武蔵小杉駅のように大規模に開発したものの、予想以上の乗降客が押し寄せて交通機関が正常に機能しなくなる可能性も考えなければなりません。
これらの可能性はIRを誘致する地域ごとに事情が異なるので、「IR誘致=不動産投資に向いている」という単純な発想ではなく、個別のケースに応じて分析して考えていく必要があるでしょう。
まとめ
IR誘致の話が各地で上がる中、地域住民との間の意見調整が難航しているケースが目立つ印象です。
これは、まだ日本版カジノの前例がないことが必要以上に住民の警戒心をあおってしまっているからでしょう。
2025年に開催される「大阪・関西万博」に向けて開発が進められている夢洲周辺のIR開業が実現すれば、その結果次第で日本人のカジノに対する考え方が大きく変わる可能性も考えられます。
不動産投資家にとって大切なことは、IR誘致を1つのカテゴリにするのではなく、地域ごとに分析して検討していくことでしょう。
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