立退料 [たちのきりょう]

立退料とは、貸主側の都合によって借主を立ち退かせたい場合に、貸主が支払う金銭のことです。
立退料は、借主が転居するための引っ越し費用や新居の入居費用といった実費、住み慣れた土地を去ることに対しての慰謝料、借主が事業を営んでいた場合には営業補償など、さまざまな要素を含んでいます。

立退料はどんなケースでも発生するか

一般にも浸透している立退料という概念ですが、実際にはどんな時にでも発生するものではありません。
例えば以下のようなケースでは、原則として貸主が立退料を支払う必要はないとされています。

1.借主側に契約違反や債務不履行などの過失がある

借主が居住用物件で営業行為をしていたとか、ペット禁止の物件でペットを飼育したなどの契約違反があった場合には、貸主は契約に基づいて立退きを正当に要求できます。

2.更新のない借家契約の満了による退去

定期借家契約など、当初から契約期間が定まっており更新も無い賃貸契約の場合は、契約満了時に借主は当然に退去することになりますから、立退料を支払う必要はありません。

3.正当事由がある場合

貸主側に正当事由がある場合には、立退料の支払いなくして立退きを要求できることがあります。
正当事由は、借主の立退きをもってしなければ解決できず、その要求が正当である事情、とも言い換えることができるでしょう。
ただし、借主が立退き要求に応じず、正当事由を認めようとしない場合には、立退料の提示によって交渉する必要が生じるかもしれません。

詳しくは、次の項目で解説します。

貸主が6ヵ月前に通知しても立退料が必要なのか

一般的な賃貸借契約書には、貸主側からの契約解除については「6ヵ月前までに申し出ること」で解除することが可能と規定されていることがほとんどですが、では6ヵ月前までに申し出れば、立退料がなくても一方的に契約を解除して借主に退去してもらえるのかというと、実はそうではありません。

立退料

貸主が賃貸借契約の解除をするためには、たとえ6ヵ月前に通知したとしても「正当事由」が必要であると借地借家法第28条で規定されています。

正当事由とは、貸主自身が自己使用したい、建て直しをしたいといった事情だけで認められることはほとんどなく、よほどの事情が必要なのが判例の傾向です。

そこでポイントとなるのが立退料です。貸主側からの契約解除が認められるかどうかの「正当事由」の有無の判断においては、立退料についても加味して考慮されます。

例えば、建物を建て直ししたいという貸主の事情だけでは正当事由が認められなくても、十分な立退料を借主に提示することで、総合的に正当事由があると認められる可能性があるのです。

このように、立退料は貸主側からの契約解除を法的に成立させるための、重要な1つの要素ともいえるでしょう。

立退料はどのように算定するか

正当事由にあたるような事情がなく、貸主側の一方的な都合によって立退きを要求したいのなら、ある程度の立退料を提示して立退きをお願いするほかないでしょう。
そこで問題になるのが、立退料の金額です。

立退料は法律上の概念ではないため、金額の算定基準などは定められていません。
よって、立退料をいくらにするかは極めてケースバイケースとなる問題です。

立退料の算定にあたって検討すべき基本的な要素は、借主の年齢や家族構成、資産状況や交渉に対する態度などでしょう。
過去の判例ではこれらに加えて、賃貸契約を結んでどれほどの年月が経っているか、物件をどのような用途で使用していたのか、立退きを要求する理由は何か、などの複数の要素を加味した上で当事者が任意に算定すべきである、という判断が多数下されています。

もし貸主が立退きを急いでいる場合には、最初から高額な立退料を提示することも可能です。
しかし、立退料が高額であれば当然に立退きを要求できるという訳でもないため、解決策として有効かどうかはやはりケースバイケースとなるでしょう。

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監修:棚田 健大郎