不動産投資コラム

旅館業の民泊・ホテルが大打撃…賃貸へ転用できる?

行政書士石井くるみ
旅館業の民泊・ホテルが大打撃…賃貸へ転用できる?

感染拡大が懸念されている新型コロナウイルスの新規感染者数は日本全国減少に向かい、全国の緊急事態宣言も解除され、少しずつ社会・経済活動が動き始めました。
しかし、経済的に大きな打撃を受けた、旅行などの観光産業の先行きは未だ不透明感が続いています。

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観光産業への深刻な影響

観光庁によると、2020年4月の外国人の延べ宿泊者数は、前年同月比から97.4%減の 26万人泊に激減しました。

新型コロナウイルスのパンデミックで、海外渡航制限や外出禁止の措置をとる国が拡大したほか、日本でも検疫強化や査証無効化、入国拒否等の措置を行なったことが要因で、これは、単月の数字としては調査開始以来では最少です。

「コロナ倒産」相次ぐ宿泊業界

宿泊業界の動きも様々で、事業撤退や再編など、目まぐるしく状況が変化しています。

帝国データバンクによると、2020年2月から6月22日までに、新型コロナウイルス関連の事業停止と法的整理をあわせた倒産は、全国で276件となっています。
倒産した企業は、東京の45件を筆頭に、39都道府県に広がっていて、業種別では「ホテル・旅館」が41件と第2位となっています。

観光庁発表によると、6月11日時点の住宅宿泊事業(民泊)の届出数は2万766件となり、2018年の住宅宿泊事業法(民泊新法)の施行以降増加を続けてきた民泊戸数が初めて減少に転じました。

新型コロナの感染拡大を受けた渡航制限による訪日観光客の激減と営業自粛で、厳しい経営環境は今後もしばらく続きそうです。

旅館業からの賃貸への転用どうする?

賃貸転用
当事務所には、新型コロナウイルスの感染拡大により事業継続が困難になるホテル・民泊などの宿泊事業者から、「旅館業に基づく許可を受けた施設を、賃貸で運用したい」という相談が急増しています。
そこで、本日は旅館業法に基づく許可を受けた施設を賃貸で運用する場合の手続と運用方法を考察してみましょう。

施設を賃貸で運用することを検討する旅館業の営業者は、

①旅館業を廃業する
②一時的に休業する
③営業形態を変えず、長期の宿泊サービスとして継続して施設を提供する

という3つの方法が検討できます。

1.旅館業を廃業する

旅館業や民泊事業を廃業し、通常の賃貸住宅として入居者が普通借家契約を締結する方法は、最もノーマルな方法と言えます。

普通借家契約は、賃貸運用を行う場合に一般的に採用される契約形態であり、通常は当初契約期間を2年と定め、その後は原則として借主の意思によって契約が更新されます。
借主が引き続き住むことを希望している場合には、貸主からの解約や、契約期間終了時の更新の拒絶は、貸主に正当な事由(貸主がどうしてもその施設に住まなければならない等の強い理由)がない限りできません。

したがって、旅館業法に基づく許可を受けた施設を普通借家契約に基づき賃貸運用には、いつ施設から借主が退去して旅館業の営業を再開できるか分からないため、一般的に「廃止届」を提出し廃業した上で契約を締結します。

旅館業を廃業する場合は、保健所だけではなく、消防署への手続きも必要となります。
また、用途変更の確認申請が必要となる場合もありますので、専門家に相談しましょう。

2.一時的に休業する

いちど旅館業を廃業してしまうと、営業を再開する場合には、再度保健所に対して旅館業の申請手続きが必要となります。

保健所

そこで、一時的に休業して、再び事業を営業する予定がある場合は、定期借家契約を利用する方法が考えられます。
定期借家契約は、上記の普通借家契約とは異なり、契約の更新がない契約で、契約期間が終了した時点で確定的に契約が終了し、貸主は確実に施設の明け渡しを受けることができます。

そこで、旅館業法に基づく許可を受けた施設において、「停止届」を提出し、計画的に定期借家契約に基づく賃貸運用し、その運用期間終了後に旅館業の営業を再開するという方法があります。

ただし、旅館業を停止している間、旅館業ではない別の用途(住宅など)に供するのであれば、いったん旅館業を廃止するように、と行政が解釈する可能性があります。
事前に個別具体的に許可を受けている行政庁に相談しましょう。

3.営業形態を変えず、長期の宿泊サービスとして継続して施設を提供する

事業はそのまま継続し、利用者と長期の宿泊サービス契約を結ぶ方法もあります。
この場合、施設を管理する旅館業の営業者は、利用者に対して一定の衛生管理責任(例:換気、採光、清潔等の措置を講じる責任)を負います。

そのため、利用者と普通借家契約や定期借家契約を結んだ場合とは異なり、旅館業の営業者は、法令及び宿泊サービス契約に基づき施設の清掃等の衛生管理サービスを提供することが義務付けられます。

引き続き旅館業の営業を行うため「停止届」や「廃止届」を提出する必要はありませんが、利用者の募集を他社に委託する場合は、引き続き旅行業者に委託する必要があり、宅地建物取引業者に仲介を依頼することはできないので注意が必要です。
利用者を自ら募集するのであれば、旅行業のライセンスは不要です。

各自の事業の状況に応じて、どのような方法を選択するか検討しましょう。

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石井 くるみ

行政書士・宅地建物取引士

石井 くるみ

行政書士・宅地建物取引士

日本橋くるみ行政書士事務所代表。東京都行政書士会中央支部理事。民泊・旅館業に関する講演・セミナーの実績多数。著書「民泊のすべて」(大成出版社、2017年度日本不動産学会著作賞(実務部門)受賞)

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